海洋ごみのない世界へ

そこで、協力隊で身に着けた語学を生かして、「もう1回修行しよう」と、在コンゴ民主共和国大使館の派遣員として赴任する。ところが、赴任後まもなく、コロナウィルスのパンデミックにより日本への退避を余儀なくされる。これが転機となり、本当に自分がやりたいことを再考した結果、やはり環境問題が頭に浮かんだ。

中でも、海洋ごみ問題は日本でも深刻化している分野だった。だからこそ、海洋ごみ問題に特化した団体を立ち上げようと作ったのがNPO法人クリーンオーシャンアンサンブルだ。この法人の登記は「日本全国に活動を広げる」という意志で、東京でしている。彼らの活動の軸となる潮流を利用した回収ごみ装置は、今は3号機を設計中である。

海洋ごみ回収装置を製作している江川さん(左)と内海漁業協同組合の代表理事組合長:森 勝喜さん

現場でのビーチクリーン経験から、ごみの溜まりやすい海岸とそうでない海岸があることや、浜の性質によって溜まるごみの性質が違うことに気づく。これには潮流、潮汐、風、温度、季節、地形等が影響しており、ごみの溜まり方や流れ方には一定の法則があると仮説を立てた。瀬戸内海は閉鎖性海域のため、外洋に比べて調査しやすい。この仮説を基に、現在、江川さんの団体は、定置網を応用した回収装置の実証実験を繰り返している。この装置は使われなくなった漁具を再利用し、地元の漁師から修繕方法を教えてもらいながら、手作業で製作している。団体の船も、使われていない船を見つけ、整備して使っている。

インタビューの最後にプライベートに話を向けると「休もうと思えば休めるけど、団体の運営と活動を進める人が自分以外に今はいない。本当の意味で解決に向けた攻めの活動をどんどんやっていかないと。垣根を越えた業界の人をより多く巻き込み、イノベーションを起こし、解決に向けた希望の技術を作りたい」と当分、帆(歩)を緩めるつもりはないらしい。

海洋ごみ回収装置2号機の設置の様子

彼が人と違うことをするたびに、非難も確かにあった。それでも諦めないのは、「悪化している海洋ごみ問題には新たな挑戦が必要で、その挑戦が多くの人の心に刺さり、より大きなムーブメントを起こし、複雑に絡み合う海洋ごみ問題全体を改善すると信じているから。そのためには私が現場第一で頑張らないといけない」という。

海の中で静かに増えていくごみに、私たちはいつまで気づかないふりをしているのだろう。江川さんは「一度出てしまった海洋ごみは、回収するしかない」と言い切る。特にプラごみは反永久的に分解されないと言われているからだ。

彼が作ろうとしているのは海洋ごみのない世界。そして、彼の活動は、これからの社会のシステムを変えるものなのかもしれない。

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