力強い走りで見る人を魅了する競走馬。数々のレースに出て華々しく活躍する馬がいる一方で、ケガなどの理由で早く引退する馬や、競走馬として登録されたもののレースに出ることなく引退する馬がたくさんいることを知っていますか。彼らは引退馬と呼ばれ、その多くが殺処分されてきました。そんな状況を変えるため、引退馬のためのセカンドキャリアを作る動きが全国に広がっています。

引退馬に新たな活躍の場を

その一つとして5年前に始まったのが、RRC=Retired Racehorse Cup。引退馬のみが出場できる競技会で、5回目となる2022年の本戦は12月18日、JRA東京競馬場にて開催されます。その本戦に出るための最後の地方予選が行われる香川県立農業経営高等学校(以下、農経高校)の馬術部に話を聞きました。

農経高校の教諭で馬術部コーチの新西勝利(しんざいかつとし)先生。馬術部に入って初めて馬にさわる生徒がほとんどのなか、安全に騎乗できるよう生徒の指導だけでなく馬の調教も行っています

「ここは香川県で唯一馬術部のある高校なんです。毎年、主基(すき)杯馬術大会という大会を実施しているんですが、その一つの種目として昨年からRRC四国予選が行われるようになりました。今年はうちの馬術部からも1頭出場するんですよ」

農経高校から初めてRRCに出場する引退馬のコールドストーム

競走馬から乗用馬へ

農経高校では、今回RRCに出場するコールドストームを含め、2頭の引退馬を飼育しています。引退馬を競技会に出場させるために必要なのが再調教。競馬でレースを走る馬を競走馬と呼ぶのに対し、馬術競技などに出場する馬を乗用馬と言いますが、競走馬は速く走ることを最優先に調教される一方で、乗用馬は障害物を飛んだり避けたりする技術が必要で、そのために再調教する必要があるのです。

RRCでコールドストームに乗る小原(こはら)翔さん

小原さんは農経高校馬術部の卒業生。卒業後、競争馬を育てる牧場に勤めていたため競走馬に乗った経験もあります。
「コールドの性格は、ひと言でいえばやんちゃ坊主。いたずら好きで、でも臆病な面もあって、一筋縄ではいかないところもありますがそれがまたかわいいところですね」

少しずつ信頼関係を築いてきたコールドストームと小原さん

コールドストームはは農経高校に来て3年目。今回のレースで初めて馬術大会に出場します。
「練習でどれだけ完璧にできていても、試合となると話は別。たくさんの観客や、他の馬が集まっていることに興奮したり、いつもと違う跳躍器具を怖がったり。そこを、人と馬との信頼関係を元に、人間がちゃんとリードしてやることでいつもの力を発揮させる。それが馬術の面白いところですね」

「コールドの仕上がりは完璧。あとは当日、僕が気合いで引っ張っていきます」と小原さん

最後に、馬術部監督の森井先生に話を聞きました。

農経高校教諭で馬術部監督の森井英治(えいじ)先生。15歳の頃から、40年近く馬に関わり続けています

「馬によって性格はいろいろなので、人懐っこい馬もいれば、気性が激しかったり極端に怖がりだったりして人を乗せて走るのに向いていない馬もいます。そういう馬をすぐ手放してまた新しい馬を迎え入れるのは簡単ですが、私はそうはしたくないんです。今、この馬術部にいるのはポニーも含めて9頭。縁あってここに来た馬ですから、どんな馬であっても、天寿を全うするまでここで面倒を見たいと思っています」

馬を愛する人たちがこれまでの慣習を少しずつ変えようとしています。その一つの形であるRRC。2022年の四国予選は、11月26日に香川県立農業経営高等学校で行われます。

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