きき酒選手権優勝者も輩出 香川県の「日本酒大学」とは?

「日本酒大学」のメンバーが香川県産さぬきよいまい100%で仕込んだ酒「初志」
「日本酒大学」のメンバーが香川県産さぬきよいまい100%で仕込んだ酒「初志」
2022年10月、リーガロイヤルホテル東京で行われた第41回全国きき酒選手権大会の優勝者は、香川県高松市で飲食店を営む有村和彦さん。本人いわく、有村さんの最終学歴は「日本酒大学」なのだそう。聞き捨てならないその大学について、いったいどんなものなのか、取材しました。
日本酒大学は2012年11月、香川の真摯な酒飲みたちが創設した任意団体です。入学資格は、飲食店勤務または飲食店志望者に限られ、酒店の役員、老舗酒造会社の代表、飲食店オーナーなどで構成されています。
学長で、高松市内で和食店を営む谷光喜さんには、ある思いがありました。
「飲食店のスタッフやオーナーに聞きたくなるんです。『お客さんに勧めてる日本酒のこと、どのくらいわかってる?』って。そんなモヤモヤがきっかけです」(谷さん)
日本酒大学のカリキュラムは、2時間の講義が年6回。県外からのゲストによる講義やぺアリング、酒造り体験を含め、濃い2時間を過ごします。中には、片道1時間以上かけてかけつける人も。
大学で最初に伝えられることはまず、「自分を知ること」。自分が何をどう感じる人間で、どんな酒を好むのか。そこから自分の言葉を持つこと、自分なりの表現で伝えられるようになること、そこを大事にしています。
日本酒大学は、自分の言葉で日本酒を勧めるための、学びの場なのです。
6年前から講師を務める、東京阿佐ヶ谷・青二才オーナーの小椋道太さんも、日本酒の熱いメッセンジャーです。
「日本酒を勧める際に、辛口かどうか以外、伝える言葉がなく、ラベルを読んでおそるおそる伝えていた」。入学当初は、学生からこんな声が聞こえてきます。
これに対し小椋さんは、「あらかじめの言葉は必要なく、売りやすいコピーを自分で作って喋ればいい。日本酒の特徴が掴みづらくても、自分の言葉が間違っていることは決してないから」と、学生にエールを送っていました。
コロナ禍で飲食店の営業がストップした昨年夏、小椋さんは、蔵元を支えていきたいと酒販免許を取得。売れ残る夏向けの日本酒を何とかしようと躍起になったといいます。アグレッシブでユニークな小椋さんの取り組みは毎年、学生に刺激を与えています。
「日本酒のおかげで人とつながれてたくさんの経験ができた。よい日本酒体験を増やしたい。何とかして日本酒文化を守っていかないと僕はつらい!」(小椋さん)
今年きき酒日本一となった有村さんは言います。
「毎回勉強になりましたが、実際に酒造りに参加できたことが自分にとってすごく大きかったです。それから飲食業界の先輩たちと話ができるようになったことも」(有村さん)
日本酒大学の正式名称は、酒立日本酒大学初等科。これまでに100人以上が巣立ちました。香川県内の飲食店を中心に、日本酒を語れる人材がそれだけいるということ。ビール会社の若手社員が熱心に聴講していたりするのも、大学の懐の深さを示します。
「日本酒に興味を持って欲しい、まず売る側が日本酒ができるまでに興味を持って理解して欲しい、だから日本酒大学はずっと初等科なんです」(谷さん)
谷さんがこれほどまでに同業者を応援するのは「いい酒場が増えたらいい街になるじゃないか、それは幸せなことじゃないか」という発想からだといいます。
日本酒を愛する人の言葉に力がこもり、自然と共生してきた日本酒文化の真髄が継がれる場になるために。酒立日本酒大学初等科は、10合生のカリキュラムが、11月15日にスタートします。