学科の勉強だけでなく、サークル活動やアルバイトなど学校の内外でさまざまな活動ができるのが大学時代。社会人になってもときどき懐かしく思い出したりしますよね。でも、その思い出が11年分もある人は、そう多くはないでしょう。瀬戸内海に浮かぶ小豆島で出会った大須賀嵩幸さんは、現在大学院で建築を学ぶ11年目の学生でした。

大須賀さんは、京都大学大学院の工学研究科に在籍し、建築について学んでいます。11年も大学にいる理由や研究しているテーマ、そして今後の目標について聞いてみました。

2020年の始めから携わっている小豆島ハウスプロジェクトの現場にて

―なぜ11年も大学に?
修士1年目の年から、大学や企業が実施するさまざまなプロジェクトに携わらせてもらっているんですが、建築のプロジェクトって始まってから終わるまでに何年もかかる場合が多くて。ひとつ終わったら次、それが終わったらまた次とやっていたら、気付いたらこんなに経ってしまっていました。

―たとえばどんなプロジェクトに?
修士1年から携わっていたのは、新建築社という会社が実施している「北大路ハウス」です。京都にある空き家を改修して建築学生が暮らすシェアハウスを作るというものだったんですが、完成後、実際に僕もここに入居しました。

北大路ハウスの内観(提供:新建築社 写真部)

―今小豆島で携わっているのは?
新建築社と砂木という会社が手がける「小豆島ハウスプロジェクト」です。このプロジェクトは瀬戸内国際芸術祭2022の公式作品にもなっていて、夏会期から公開されます。空き家を改修した建築作品で、瀬戸芸の期間中は、建築家やアーティストによる作品を展示したり、地域の方と協力してフードトラックを出店したりしますが、その後はアーティストや学生が使える場になる予定なんです。

港から集落の坂道を上がった先に小豆島ハウスはあります

―改修中は小豆島に住んでいたそうですね。
はい、2022年の春から改修工事が始まったんですが、それからずっと改修中の家の2階に住んでいました。工事の現場にこんなに密着することってあまりないのでとても勉強になりましたね。空き家の元の持ち主の方や地域の方にいろんなことを教えてもらえて、建築の周囲の環境まで含めた意味での現場暮らしを体験しました。

完成した小豆島ハウス

―大須賀さんの研究テーマは?
「生きられた公共建築」を作ることです。建築で「生きられた家」という言葉があるんですが、それはつまりピカピカの建築ではなく人が住んでいた民家とか暮らしの痕跡が残った建物のこと。たくさんの人が使う公共の建築こそ、そういった愛着がわくものになった方がいいんじゃないか。6年前の北大路ハウスでは、建築の学生が集まって意見を出し合うワークショップをしながら建築を考えていったんですが、いろんな人の思考が入り込んでくるプロセスがおもしろかったんですよね。それで、僕は単に建築物を作るというより、建築を通して何かが起こっているという状況、その空間が起こす現象に興味があるんだなと気付いたんです。

北大路ハウスでのワークショップの様子(提供:京都大学 平田研究室)

―大学生活で印象的だったことは?
やはり修士課程に進んだときに今の研究室に入って北大路ハウスに携わったことは大きいですね。学部生時代は、というか今もですけど、周りに対する引け目のようなものがずっとあって。もちろん建築に興味があって大学に入ったんですが、実は恥ずかしい話、当時は安藤忠雄さんの名前さえ知らなかったんです。友人たちと話してても知識や興味のベクトルが違うなとずっと感じていました。そんな僕が、自分の建築の方向性をつかむ一つのきっかけになった出来事でした。

北大路ハウスの外観(提供:新建築社 写真部)

―今後の目標は?
北大路、小豆島のようなプロジェクトを各地でやっていけたらいいなと思っています。そしてそこに自分も住みながら、各地に新しいハウスを作ってそこを転々としていくような暮らしもしてみたいですね。長い学生生活の間にいろいろなプロジェクトを経験できたおかげで、やっと具体的にしたいことが見えてきました。残る課題は博士論文。今年度末の卒業を目指してがんばります。

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