小説『二十四の瞳』で知られる香川県出身の作家、壺井栄を顕彰するとともに、郷土の児童生徒の文芸資質向上を図るため設けられた「壺井栄賞」。その記念すべき第50回目にあたる2022年の授賞式が、6月23日に開かれました。最優秀作品にあたる壺井栄賞を受賞したのは、小豆島町立星城小学校2年(応募当時1年)の木下琥大郎さん。その裏側には、コロナ禍による父親の仕事への影響がありました。

ちょっと緊張した面持ちで賞状を受け取る琥大郎さん

琥大郎さんの父親の木下智也さんは、小豆島にある宿泊施設、国民宿舎小豆島の料理人。コロナ禍で宿泊客が減り、仕事が早く終わる日も増えたため、そんな日は家族の帰ってくる時間に合わせて晩ごはんを作るようになったそうです。

普段は夜遅くに帰ってくる父親が、晩ごはんを作って一緒に食べてくれることがうれしかったのでしょう。琥大郎さんは、そんな父親が作る料理のおいしさの秘密を探る作文『パパのごはん』を書き上げ、見事壺井栄賞を受賞しました。

琥大郎さんは、父親が作るごはんが大好き。そのおいしさの秘密を探っていくと、味だけでなく見た目も美しく盛り付けることや、父親自身がニコニコ楽しそうに料理していることがわかります。そして何より、家族みんなで一緒に食べることもおいしさの秘密だと、自らの体験を通して気づくという内容です。

木下琥大郎さんの作文『パパのごはん』

作文のなかで、最終選考委員を務める作家の芦原すなお氏が「思わずうなった」という表現があります。それは、食卓に並ぶ料理を『やさしくすわっているサラダ、でかいたいどでねそべっているおにく、にこにこわらっているおさかな』と表現した部分。芦原氏は「とてもユニークな表現だが、言われてみれば確かにそう見えてくる」と授賞式の講評で評価していました。

今回は香川県内の19校から122編の応募があり、そのなかから壺井栄賞1編、優秀賞5編、佳作7編が選出されました。

このユニークな表現について琥大郎さんに聞くと、以前からそんなふうに感じていたとのこと。食卓に並ぶ料理がそんなにイキイキして見えるのは、それだけ琥大郎さんが家族みんなで食べる食事の時間を楽しみにしているからでしょう。家族がニコニコ笑いながら楽しく食べることも、おいしさの秘密だと語る琥大郎さんの作文は、普段の何気ない日常がいかに子どもの心に強く残っているかを教えてくれているようです。

琥大郎さんは智也さんの、やさしくて、釣りがうまいところが大好きだそう

コロナが島の観光に与えた影響は非常に大きいものでしたが、それによって家族の時間が増えたからこそ生まれた今回の琥大郎さんの作文。

授賞式で琥大郎さんは「いろんな人からおめでとうと言ってもらえてうれしい。これからも家族で楽しくごはんを食べたい」などと喜びを語りました。

大勢の人の前で、堂々と受賞の喜びをスピーチした琥大郎さん。

また「お父さんが作ってくれる料理で、お魚料理がとくにおいしい。大きくなったらお魚屋さんになりたい」とも話す琥大郎さん。最近は父親の真似をして包丁でかまぼこを切ったりしているそう。父親の背中を見て、島の子どもらしくのびのびと育っていってほしいものです。

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