広島県尾道市久保町に、地元の人に長年愛されているおいしいお好み焼きの店があります。

「お客さんのリクエストに答えていたら、メニューがどんどん増えちゃって」

にこやかに笑う奥上さん一家が営む「お好み焼き パル」(以下、パル)です。

おいしい料理と珍しい食材

パルではお好み焼きだけでなく、60品ほどの料理が楽しめます。まず食べてほしいのが「尾道焼き」です。

薄い生地の上にキャベツや肉などの具材をのせ、中華麺(中華そば)を入れる広島のお好み焼きですが、実は広島県内でも土地によってさまざまなお好み焼きがあります。尾道焼きは砂ずり(砂肝)が入るのが特徴です。

尾道焼き 860円(税抜)

甘みを十分に引き出されたキャベツにもっちりした生地、ボリュームたっぷりのそば、ふんわりやさしい卵などを、甘めのソースが包み込むお好み焼き。鉄板に落ちたソースが少しずつ焦げていく匂いが食欲を刺激します。

アツアツのお好み焼きを頬ばると、すべての具材が渾然(こんぜん)一体となった旨さがガツンと頭のてっぺんまで響いてきました。コリコリとした砂ずりの食感の楽しいこと。

尾道焼きの断面

他ではあまり見かけない、ちょっと珍しい食材に出会えるのもパルの魅力。定番メニューはもちろんですが、そのときにしか出会えない一品料理もぜひチェックしてみてください。

その日の料理を書き出したホワイトボード

パルの不動の人気の一品といえば、アメリカから輸入している食用のカエル。子どもの頃に食べた味を大人になっても忘れられず再訪する人も多いのだとか。

鶏肉と白身魚の間のような感じですが、あっさりと淡白で食べやすい肉です。これは、印象に残りますね。

カエルの足の唐揚げ 490円(税込)

もうひとつ、気になったメニューがザリガニです。

残念ながら取材に行った日は品切れで、食べられませんでした。北海道の阿寒湖で捕れる天然のザリガニは、肉厚のエビのようでおいしいそうです。

その他、自家製の燻製(くんせい)や釣ってきたイカなど、バリエーションに富んだ料理が楽しめます。

あたたかい絆がある

子どもを連れた家族や、料理をつまみに酒を飲み、シメにお好み焼きを食べる客が多いというパル。おいしい料理と奥上さん一家との楽しいおしゃべりとで、気持ちのいい時間が過ぎていきます。

店主の奥上 純生(おくがみ すみお)さんの話は、面白いエピソードがいっぱいです。

純生さんの趣味は、機械の修理です。周りの人に教わりながら、修理の技術を身につけてきました。古いバイクや機械をていねいにメンテナンスしながら使い続けるのが、純生さんのスタイルです。

その修理の腕前は、本職のバイク屋さんからもお墨付き。お客さんから「バイクが動かなくなった。助けて!」と連絡をもらって、修理に出向くこともよくあるのだとか。

「この間は、カフェをやっている知り合いが『エスプレッソマシンが壊れた』って困ってたんですね。修理だけでも10万円、新しいマシンを買ったら40万円はするというので、じゃあ、ちょっと見てみようか、と。開けてみたら、基盤の隣の配線が焦げていました。それをつなぎ直したら、直ったんですよ。お礼にと、うちの店のホームページを作ってもらいました」と純生さん。

周りの人に温かく、周りの人から頼られる、そんな人柄が伝わります。その修理の才能を駆使して作ったもののことや、店オープンの経緯などを聞きました。

奥上さん一家にインタビュー

パルは2022年現在、開店から21年になります。

地元のお客さんに愛され続ける秘密を知りたくて、奥上 力夫(りきお)さん、奥上 加代子(かよこ)さん、店主の奥上 純生(すみお)さんに話を聞きました。

──オープンの経緯はどんなものだったのでしょうか。

力夫(敬称略)──
サラリーマンをやっていたのですが、尾道の営業所から本社に転勤するように言われてしまったんですね。でも、尾道を離れたくない。じゃあ、会社をやめて店をやろうかと。45歳のときでしたから、もし、店がダメだったらまた働けばいいかという気持ちでした。

当時、尾道にはラーメン屋が20軒、お好み焼き屋が60軒くらいあったんです。ラーメンとお好み焼き、どっちにしようかと悩んで、お好み焼き屋にしました。その頃、尾道ラーメンはまだ無名だったんですよ。

ラーメンを選んでおけば、今頃は行列のできる尾道ラーメンの名店になっていたのかもしれないけどねえ(笑)。

加代子(敬称略)──
最初はほんの小さな店でした。オープンしたのが4月でしたが、お客さんがどんどんこられて、毎日満席。せっかく来てくれたお客さんも、店に入れずに帰っていくような状態でした。

それで8月には増築をして、それでも足りなくて、また広げて。カラオケルームも増やしました。その頃は休みを取る間もなくて、家に帰り着いたら疲れ果て、玄関先で寝ていたくらいです。大学を卒業した息子にも店に入ってもらって、家族で切り盛りしてきました。

以前はラグビーや野球など、スポーツ関係の人たちが団体で来てくださってましたね。今となっては広すぎるお店ですけど、ソーシャルディスタンスを保ちながら食べられるから、安心かしら?

お店の入口左がカラオケルーム

──開店当初から、今のようにたくさんのメニューがあったのですか。

力夫──
はじめはお好み焼きと枝豆くらいのものでしたね。今は60品以上あると思います。お客さんのリクエストに答えていたら、だんだん増えてきちゃったんですよ。お客さんに育ててもらって、今の店になりました。

広々としたパル店内

──ゆっくりとお酒を楽しむお客さんが多いのですね。駐車場が広くて、車で来られるイメージですが。

純生(敬称略)──
そうなんです。飲んだお客さんが代行運転で帰っていくと、食べるより代行の料金のほうが高くつくんですよね。なんだかそれが申し訳なくて、僕がお客さんの車を運転して送っていけたらいいな、そのためにはお客さんを送っていったあと、店まで帰ってくる交通手段が必要だなと思って。

それで、お客さんの車に積み込めるサイズになるように、バイクを切ってつなげたんですよ。

──ええっ? バイクを、切って、つなげるって、どういうことですか?

純生──
普通のバイクじゃ、車に積めないでしょう?だから、小さいバイクがほしいなと。1年ぐらい調べて、重量やパワーからこのモデルだ、というのを絞り込みました。インターネットで2台で7,000円になっていたものを見つけて、広島まで受け取りに行ったんです。

真ん中を切って短くつなぎ合わせ、走るために必要なものだけ残して小さく軽くして、30キログラムほどにできました。ハンドルは、抜いてたためるように工夫しています。ガソリンタンクも小さいものに交換しました。

切ってつなげた小さなバイク

──ナンバープレートがついてる!ということは、公道を走ることが認められているバイクなんですね。

純生──
そうです。軽自動車にも積めるサイズですけれど、届けも出してあるちゃんとしたバイクですよ。

必要最小限だけ残してある

──これをお客さんのために作ったんですか。驚きです。

純生──
ほかに、トゥクトゥクで送ってほしい、といわれるお客さんもいます。

──トゥクトゥクって、タイの三輪タクシーのトゥクトゥクですか?

加代子──
ええ。バイクよりも荷物がたくさん積めて、軽トラックよりも税金が安いんだと、純生がインターネットで探して買ったんです。

店名が入ったトゥクトゥク

純生──

これでお客さんを送っていると観光客がびっくりして、よく写真を撮られますね。送っていく途中で動かなくなっちゃって、お客さんと一緒に押したこともあります。せっかくの酔いが覚めるわと、叱られましたねえ(笑)。

──お客さんに楽しんでもらうためのサービスの一部が、このバイクやトゥクトゥクなんですね。

力夫──
そうですね。お客さんに楽しんでもらいたいから、よその店にないもの、話題になるものをメニューにも入れてきました。業者さんと相談して取り入れたのが、カエルやザリガニです。イノシシも、飼料ではなく自然のものだけを食べて育った肉なので、ヘルシーでおいしいんですよね。焼肉やラーメンなどで出しています。

加代子──
イノシシはすごくいい出汁が出ますね。みなさん、ホワイトボードを見て「えっ、イノシシラーメンって何?」と興味を持たれます。

力夫──
1トンくらいの大きな水槽を置いていたこともあるんですけどね。仕入れた魚を泳がせて、よしよし、と思って次の日に店に来たら全滅していたときはがっかりしました。

顔にコブのあるコブダイとか、高級魚のイシダイを入れていたこともあります。何匹かはすぐに注文があってさばいて出したんですが、1か月くらい水槽にいたイシダイもいてね。

お客さんからイシダイくれ、って言われたときにはすっかり情が移ってしまって、もう出せない。料理するのを断りました(笑)。そんなこんなで、赤字になるから水槽はやめましたねえ。

クレーンゲームのサービスもある

お客さんとともに21年歩んできた店

話のなかで感じたのは、「お客さんのため」に歩んできた奥上さん一家の温かい気持ちでした。

客に愛され、客を大切にしてきた21年が、パルの味を作っています。アットホームな雰囲気で、おいしいお好み焼きや他では食べられない変わった料理を食べたい人は、パルに足を運んでみてください。

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