1300万年前の火山活動によってできた渓谷美と巨石・奇岩の数々、そして目の前に広がる瀬戸内海を一望できる寒霞渓。小豆島で人気の観光スポットであり国立自然公園にも指定されているこの場所に、はじめてアート作品が設置されました。作品名は、「空の玉/寒霞渓」。瀬戸内国際芸術祭2022の作品として公開されています。約2週間の公開制作が行われたことでも注目を集めたこの作品について、作者である彫刻家の青木野枝さんに話を聞きました。

彫刻家の青木野枝さん。公開制作前の準備中、寒霞渓にて。

―作品のコンセプトを教えてください。
一番は、この素晴らしい景色をもっとたくさんの人に見てほしいということ。そのための場所として、直径約4mの球体の見晴台を考えました。私の作品は鉄を素材とし、とくに特別な塗装はしていません。設置した瞬間から錆び始め、だんだん周囲の景観に溶け込んでいくんです。

作品設置場所から見える景色。今の時期は新緑が青空に映える絶景が楽しめます。

―この作品が誕生した経緯を教えてください。
ここから眺める景色は大パノラマですごく開放感があるんですが、ここに至るまでは木立に覆われた山道を歩いて来るんです。その対照的な2つの景色をつなぐものはどんな形がふさわしいかと考えた結果、球体という形になりました。木立を抜け、さらにこの球体に入ってから大パノラマの景色を見る。そのプロセスも楽しんでもらえたらと思います。

この階段を上ると地面から140㎝高くなります。その先の開口部から景色を見ると、何とも言えない開放感があります。

公開制作前の現場。重さ150㎏を超える鉄板を慎重に持ち上げています。

―制作にあたって印象的なエピソードはありますか?
今回の作品は人の手が触れる場所も多いので、切り出した鉄の表面をグラインダーで滑らかに仕上げました。普段は切りっぱなしのことが多いので、この作業がとても大変で。小豆島に来る前日までグラインダーをかける作業に追われていましたね。

3m×1.5m×12mmの鉄板から輪を切り出し、その一つひとつにグラインダーをかけています。この輪をいくつもつなげて大きな球体を作りました。

―島で制作することの良さ、難しさは?
良さはやっぱり、この景色です。こんな素晴らしい景色を見ながら制作できて、スタッフもみんな感激しています。難しいのは、島の人にとって大切な場所に作品を置くこと。古い歴史や物語が残る寒霞渓に作品を置かせてもらうからにはと、ここにふさわしいものを私なりに一生懸命考えました。

青木さんとスタッフのみなさん。建築士や土台の工事を担う建築会社、小豆島の石材会社など、たくさんの人が作品制作をサポートしています。

―作品を通して伝えたいことは?
私からこれを伝えたい、こう感じてほしいというのはありません。来た人が、この作品を経由してこの景色を見ることで、それぞれに何か感じてくれたらいいなと思います。

この作品が設置されているのは、小豆島の寒霞渓ロープウェイ山頂駅から徒歩約5分の場所。会期に関わらず常時鑑賞できます。

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