マーチングバンドに欠かせないといわれるカラーガードは、フラッグ・ライフル・セイバーなどの道具を用いて、ショー全体の芸術性を高める役割を担う。独学でカラーガードの技術を身につけ、マーチングの本場アメリカで世界チャンピオンになった日本人がいる。現在、日本各地でカラーガードの指導を行う中川真太郎さんだ。

久しぶりに見たDVDがきっかけに

中川さんがカラーガードに興味を持ったのは、中学生のとき。

小学生、中学生と吹奏楽部でサックスを演奏していた中川さんは、中学で地域のマーチングバンドにも所属。マーチングではドラムを担当していたが、当時体を伸び伸びと動かすカラーガードの演技に目を奪われていたそう。

高校は吹奏楽の強豪校に進学。マーチングをやめ、サックスに集中する3年間を送る。卒業後は音大でサックスを学ぼうとしていたが、同級生が持っていたイギリスの大学のパンフレットを見て、考えが変わる。

「その大学がめちゃくちゃかっこよく見えて。音楽をイギリスで学びたいと思いました」

高校卒業後は留学に向けて、英会話の専門学校に進学。いよいよ留学先を決めるときに、ポンド高で留学費用が高額になると判明し、留学先をアメリカに変更した。

舞台演出やエンターテイメントにも興味があった中川さんは、シルク・ドゥ・ソレイユなどでインターンができるラスベガスの大学を選択する。

留学に向けた荷造りで、部屋を整理していたときのこと。中川さんは、中学生のときに飽きるほど見たDVDを偶然見つける。アメリカのマーチングバンドが集まる「DCI(Drum Corps International)」の世界大会のDVDだった。(DCIとは「マーチングのメジャーリーグ」とも呼ばれる、アメリカ最大のマーチングイベントのこと)

「久しぶりに見たら鳥肌が立って、『マーチングやりたい』って直感が働きました。でもDCIには年齢制限があって、当時の僕にはチャンスがあと1回しかなかったんです」

最後のチャンスならやるしかない。しかし、専門のサックスはマーチングバンドにない。ならば、かつて憧れたカラーガードでオーディションを受けようと決めた。

2011年、中川さんはアメリカに渡る。

ひとりきりでつづけた練習

「基礎もないまま、一人でひたすら練習しましたね。入りたいチームの振り付けを真似して分析して、の繰り返し。一日でもサボったら受からないって、自分に言い聞かせました」

志望したチームはDCIで毎年上位に入る「The Cavaliers」。オーディションを受ける人はみな世界トップレベル。独学で挑んだ中川さんは、見事合格を勝ち取った。初心者の合格は異例だったそう。

その後3か月間、中川さんはチームメイトと生活しながらバスでアメリカ中を回り、ショーを行う日々を送る。ツアーの最後には、DCI最大のイベントに出場。ついに中川さんはDVDで見た夢の舞台に、自分の足で立った。

挫折から世界チャンピオンへ

1年生をラスベガスの大学で過ごした中川さんは、本格的にダンスを学ぼうと2年生からネバダの大学に編入。さらに3年生からは、シカゴの大学に編入を考える。

「WGI(Winter Guard International)というカラーガードの大会に、シカゴのチームで出たくて。そのためにはシカゴの大学への編入が必要だったんです」

The Cavaliersに受かった経験から、「努力すれば道は切り開かれる」と絶対的な自信があった。

無事、編入試験に合格し編集手続きをしようとした矢先、奨学金のトラブルが起こる。編入までの奨学金50万円の一時返済が求められた。

「当時はそのお金を調達できなくて、編入を諦めました。お金が原因で道が閉ざされたのが悔しくて、3日間泣き続けましたね」

しかし、このままではいけないと感じ、「目の前にあるチャンスを最大限に生かそう」と考えを切り替えた。

「誘われるイベントやパーティーに参加していくうちに、つながりが増えて、多くのチャンスを与えてもらえました」

この時の経験は、大学卒業後の就職にもつながったという。

もちろん、肝心のカラーガードも諦めなかった。奨学金トラブルによりシカゴの大学への編入は叶わなかったが、目指していたシカゴのチームと常にトップを争っていた「Santa Clara Vanguard」が自宅から通える距離と知り、オーディションを受けることに。合格してチームに入ってみると、想像していた以上に素晴らしいメンバーや指導者に恵まれた。

そして在籍2年目で、念願の世界チャンピオンに輝く。

優勝を勝ち取ったチームメイトと

「できることを精一杯やっていたら、自然と道が開けましたね。選択を間違えたと思ったことはありません。選択した後にどれだけベストを尽くせるかだと思います」

忘れていた感情を思い出させてくれる

現在中川さんは、都内のIT企業で働きながら、週末にカラーガードの指導を行っている。

「大会前にチームの熱いパフォーマンスが見られるのが嬉しいです。学生のときの夢や泥臭さを、思い出させてもらっています。泣いたり、笑ったり、感情の種類が増える感じがしますね」

この記事の写真一覧はこちら