入学当初からずっとコロナ禍で過ごす大学3年生が考えたビジネスプランが、2021年の「岡山イノベーションコンテスト」と「日経ソーシャルビジネスコンテスト」でともにファイナリストに選ばれ、今注目を集めています。そのビジネスプランの名前は「カエリタイ」。「カエリタイ」は帰省したい学生と地元企業をつなぐプラットフォームサービスで、企画したのは岡山県出身で東京都の大学に通う山本幸歩さん。山本さんに、このビジネスプランについて話を聞きました。

「自分も岡山出身で、地元に帰るたびに“帰省ってお金がかかるな”と感じていました。さらに周囲の友人たちからも、帰省したいけど費用が捻出できない、帰省しても実家でゴロゴロしているだけだという話を聞いて、帰省がもっと気軽にできて、かつ意義あるものになればいいのにという思いを持っていたんです。そこで2年生の夏にこのアイデアをまとめてビジネスコンテストに応募し、2022年3月から実証実験をスタートしました」

「カエリタイ」は、学生が帰省したときに地元企業でインターンシップや農家のお手伝いをするなどし、その貢献度に合わせて帰省交通費が支払われるもの。大学生と地元企業のマッチングができた時点で学生は往路の交通費を得ることができます。その後帰省して地元の企業や農家で働き、受け入れ企業の評価に合わせて報酬として復路交通費を得るという仕組みです。

山本さんが元々面識のあった人やその紹介などから、実証実験に協力してくれる企業や農家を募りました。写真は、「星ノシタノゲストハウス」でグランピング施設オープンのお手伝いをした学生3人と、施設のスタッフ。

帰省費を稼ぐよりも大切なこと

最初は「帰省費を稼げたらいいな」というアイデアから始めたプロジェクトですが、企画を詰めていくうちに核のコンセプトはそこではないと気付いたそう。

「今、メインのコンセプトにしているのは“地元のかっけぇ大人と出会う”こと。帰省費は副次的なものととらえています。東京がいちばんキラキラしているとか、岡山じゃ何もできないと思っている人もいるけど実際はそうじゃない。地方にいても都会にいても、自分のスキルやクリエイティビティを生かして地域に何かを仕掛けたり、自分で職業や暮らしを作っている大人がたくさんいます。そういうカッコイイ大人たちとつながって数日間一緒に働くことで、学生にいろんな気づきがあったらいいなと思うようになりました」

山本さん自身は、地元岡山にいたころから自身が思う「かっけぇ大人」とつながりがあり、将来の職業や生き方の選択肢についての考えを広く持っていました。今回の実証実験で協力してくれた企業も、8割が元々の知り合い。実証実験後は、学生や企業へのヒアリングをして改善点を見つけていきます。

実証実験に参加し、地元岡山でブドウ農家の手伝いをする学生たち。

まずは継続性、そしてエリア展開へ

「実証実験の結果をまとめるのはこれからですが、今の時点でも見えている課題はたくさんあります。それらを一つひとつクリアして、どうやってサステナブルな事業にしていくかということをまず考える必要があると思っています。それから、岡山以外の地域への展開。SNSで、私のことを全然知らない人や岡山とも関係のない人から『おもしろい』とか『可能性を感じる』、『ぜひ他のエリアでも』という声をたくさんいただいて、それが励みになっています」

このプロジェクトは、単純に岡山に戻って就職する人を増やすというものではありません。山本さんは言います。

「私自身、20代のうちは自分を高めるためにレベルの高いところで頑張りたいと思っているし、新卒ですぐに地元に帰ることがすべてじゃないとも思っています。自分のライフステージに合わせて、アイデンティティを感じて心地よく過ごせる場所を選んでほしい。例えば、新卒の就職先でスキルアップを積み重ねた先に、そこで終わりじゃなくて、そういえば地元にもこんな人がいたなと思ってもらったり、離れていてもその人たちと何か一緒にできないかと考えてもらったりする一つのきっかけとして、このプロジェクトが役立てばいいなと思います」

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