食料不足を解決する手段の一つとして、今注目が集まっているのが「昆虫食」。2013年に国連食糧農業機構(FAO)が発表したレポートによると、昆虫は牛や豚の飼育に比べて、同じタンパク質を生成するのに必要な水やエサが少なく、温室効果ガスやアンモニアの排出も減ります。また、栄養価も高く健康的な食品とされています。

この昆虫食のなかでも、特に「コオロギ」の可能性に着目し、国産の食用コオロギの生産・普及に奮闘しているのが、徳島大学発のベンチャー企業・グリラス。今回は取締役CFO(最高財務責任者)の柿内将也さんに、グリラスが目指す未来を取材しました。

グリラス 取締役CFOの柿内将也さん

コオロギの可能性を社会に

グリラスの生産拠点(徳島県美馬市の旧小学校) 提供:グリラス

グリラスは、2019年に徳島県鳴⾨市で創業したフードテックベンチャーです。 25年を超える徳島⼤学の基礎研究をベースに、コオロギの研究から生産・加工・食品としての販売までをワンストップで手掛けています。自社の商品としては現在、カレーやクッキー、粉末パウダーなどを販売しています。2020年には良品計画と協業し、「無印良品」の商品として「コオロギせんべい」が発売されたことでも注目されました。

無印良品「コオロギせんべい」(税込190円)

グリラスは、コオロギを「持続可能な循環型⾷品=サーキュラーフード」として確立させようとしています。雑食であるコオロギには、例えば、農作物を加工する際に出る残りかすを足し合わせてエサとして与えることができ、これが食料不足だけでなく、フードロスの解消にもつながると考えています。

フタホシコオロギ 提供:グリラス

「コオロギは、自分の体重を増やすために、大体2倍ぐらいの食料を食べます。なので、コオロギが何グラム入っているかによって、食べているフードロスの量が分かるんです」

グリラスが生産しているコオロギは屋内の密閉空間で飼育されており、与えている餌も選定しているため、雑食であることのデメリットは、防いでいるということです。

おいしくないと意味がない

自社ブランド「C. TRIA」の冷凍パン 提供:グリラス

しかし、いくら栄養面、環境面でのメッセージ性があったとしても、おいしくないと食べてもらえないのが実情。このため、商品化するときには、食べて違和感のないように、味の追及も欠かせません。気になるコオロギの風味は、エビやカニに近いものだそう。

「我々も、いかにおいしく召し上がっていただけるかというところに気を使っており料理に馴染むようにしていますので、基本的に食べた方は『あれ?これコオロギ入っているかどうかわからないね』となります。最後の方に『あ、これかも?』と感じて貰える程度ですね」

自社ブランド「C. TRIA」のレトルトカレー(グリーン) 提供:グリラス

商品はオンラインショップのほか、徳島県の空港やショッピングモールなどでも販売されています。県内での認知度は高まってきており、廃校を活用したファームがある美馬市では、ふるさと納税の返礼品にも選ばれています。

「もちろん肉もおいしいですし、魚もおいしいですし、そこにとって代わるつもりは毛頭ないんですけど、365日、1週間のうちの一食はコオロギでタンパク質を補おうと。そういう選択肢をみなさんが選べるような環境づくりができればなと思っています」

写真下部の右側はレトルトカレー、左側はチョコクランチ

日本全国、そして世界へ

“コオロギの⼒で、⽣活インフラに⾰新を。”をミッションに掲げているグリラスは、2月に新たに約2.9億円の資金調達を実施。新しいファームの立ち上げによる生産体制の拡充や、研究開発の加速などを行うとしています。

コオロギの飼育風景 提供:グリラス

代表で徳島⼤学バイオイノベーション研究所・助教の渡邉崇⼈さんを中心に、同じ志を持ったメンバーと共に、新しいことにチャレンジし続ける環境が楽しいと、柿内さんは話します。

「本当に0から1に近いんですけど、新しい食文化を作る、作った上で環境に負荷がない形で食品不足を補うしフードロスも解消するという、同じ目標を持ったメンバーと共に汗かいて働けているって言うのが一番楽しいですね」

正規社員の集合写真(2021年末時点) 提供:グリラス

コオロギを食べるという、日本のほとんどの地域にはない食文化。徳島大学発ベンチャーの成長によって、今後全国に浸透していくのかどうか、注目です。

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