香川県の西部、三豊市の荘内(しょうない)半島にある紫雲出山(しうでやま)。山頂付近では桜と瀬戸内海の多島美のコラボレーションが楽しめる、絶好のお花見スポットです。ここの桜が全国的に有名になったのは、ニューヨークタイムズ電子版に掲載されたのがきっかけ。「2019年行くべき52か所」に日本で唯一「瀬戸内の島々」が選ばれ、そこに紫雲出山の桜の写真が掲載されたのです。そんな紫雲出山の昔と今の姿を知る、地元自治会の人たちに話を聞きました。

地域のシンボルから全国区の桜へ

大浜自治会長の森伸男さん(左)と、鴨之越自治会長の大坪弘一さん(右)。

「紫雲出山は荘内のシンボルだから、そりゃあ思い入れはあるよ。小学校や中学校の校歌でも歌ってきたぐらい、子どもの頃から慣れ親しんでいるからね」(森さん)

「毎年行われている桜まつりも、昔は本当に地域の人たちだけの小さなお祭りだったんですよ」(大坪さん)

森さんや大坪さんをはじめとする地元自治会の人たちは、登山道の整備やアジサイの剪定など、県などの呼びかけで行われる紫雲出山の整備・保全活動に積極的に参加してきました。ほかにも桜まつりの準備や運営を行うなど、昔からさまざまな形で紫雲出山の桜に関わっています。

荘内半島には浦島伝説に由来する地名が多く残っています。この紫雲出山も、浦島太郎が玉手箱を開けて出た煙が紫色の雲になって山にたなびいたことから名付けられたと言われています。(写真提供:三豊市観光交流局)

「以前は、花見客と言っても地域外から来る人はそんなに多くなかった。でも数年前から激増して、駐車場へ行く道は大渋滞。地元の人たちも渋滞に巻き込まれて何時間も家に帰れないようなこともあった」(森さん)

「当時はまだコロナ前で、外国の人もたくさん見に来られていましたね」(大坪さん)

その後、2020年は新型コロナウイルス感染拡大防止のため入山禁止に。2021年からはマイカーでの入山はオンライン事前予約制になりました。

「以前は人ゴミで写真を撮るのも大変だったけど、予約制なら一度に入山する人数が限られているからゆっくりと見られてよかった、という声も多かったですよ」(森さん)

「県外からわざわざ来られる人もいてね。それだけ紫雲出山の桜も全国区になったんだなあと思いました」(大坪さん)

観光客が増えてからも率先してハイシーズンの交通整理などに参加している森さんと大坪さん。背景に見えるのが紫雲出山です。

美しい桜を守るための課題

そんな紫雲出山の桜ですが、近年「てんぐ巣病」という伝染病が山全体に広がり、枯れてしまう木が増えてきているとのこと。

「てんぐ巣病になると、枝にコケが生えたようになって、その枝は花が咲かなくなります。だから、紫雲出山の有名なあの写真も、今は同じようには撮れないと思う。花の数が減っているし、去年大がかりな伐採があったから」(森さん)

地元をはじめ多くの人に愛される紫雲出山の桜を守ろうと、桜保全のための募金活動も行われています。

「桜の保全もそうだし、地元自治会の高齢化も課題の一つ。桜のシーズンには観光客の誘導や案内のために地元自治会から人が出ていますが、その自治会ももう高齢化していて次の担い手がいないんです」(森さん)

ふもとから山頂までは登山道を歩けば40分程度。徒歩でなら事前予約なしで入山できます。(写真提供:三豊市観光交流局)

ほかの多くの絶景スポットと同じように、紫雲出山の桜も地域の人たちの活動によってその美しさが保たれています。地域の誇りである美しい景観を守り続けていくために、次世代の担い手が、今、必要とされています。

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