和歌山県岩出市で暮らす谷口亮太さん・知里さん夫妻は2021年、オンライン専門のスイーツショップ『Lagom Sweets Labo』をオープンしました。
販売されているスイーツに、合成の添加物・着色料・保存料は一切使用されていません。長期保存や商品の見た目が重要な要素であるオンライン商品を販売するにも関わらず、乗り越える壁がより多い道を選択した、その理由に迫りました。

「食べ物が身体を作る」という“当たり前"に向き合う

ケーキの焼成を行う谷口亮太さん

パティシエである谷口亮太さんは、学生時代からさまざまな体調不良に悩まされてきました。毎日のように痛む頭、花粉症、手放せない薬の数々。そのまま成人し、パティシエの道へ。日々を苦しめる体調不良は、知里さんと結婚した後も続きました。

そんな亮太さんを見て「なんとかしたい」と思っていた知里さんは、偶然見かけた雑誌のある言葉に目を止めました。“食べた物で身体が作られる"。

それからの知里さんは、毎日の食事を見直しました。なるべく無添加な食事を、オーガニックな素材を。すると、3か月もしないうちに亮太さんの体調不良が消えていきました。10年以上悩まされていた苦しみから解放され、“食べた物で身体が作られる"ことを、身をもって体験したのです。

生活に“オーガニック"を落とし込むことの難しさ

実際に商品に使用されている材料

今まで生きていく中で気にしていなかった、添加物やオーガニックな食材。もちろん、添加物が身体に良いものではないことを知っていたし、オーガニック食材が身体に優しいことも知っています。しかし、谷口さん夫婦は、それを体験し、心の底から、身体の底から"知ってしまった"。それにより、毎日の生活に罪悪感が付きまとうようになったそうです。

亮太さんは当時、他店でパティシエとして働いていました。砂糖がたくさん入っているスイーツを、生み出す仕事をしていること。亮太さんの「罪悪感」が膨れ上がっていました。知里さんも、買い物に行けば商品の裏面を見て「これも添加物が入っている」、外食に行けば「何が入っているか分からないものを食べてしまった」と感じる毎日。

オーガニック製品は、メジャーとマイナーで分けると、マイナー寄りの製品です。可能な限り無農薬な商品を選びたいと思っても、価格が高く、そもそも商品が並んでいないこともあります。なるべく、自分自身が考える「身体に良いもの」を食べたい。でも、買うことができない。理想とのギャップに落ち込んでいたそうです。

辿り着いた答えは“バランス”を見つけること

悩み抜いた、谷口さん夫婦。落ち着いた結論が、「バランスを取ること」でした。外食をした次の日は、オーガニックな食材を使用し、料理を作ろう。見るからに砂糖が多く含まれていそうなスイーツを食べたあとは、身体に優しいスイーツを食べよう。

そういった毎日が積み重なり、作られたのが、オンラインスイーツショップ『Lagom Sweets Labo』です。店名にもなっているLagomには、“バランス"という意味があります。

日々の生活に、こだわられた身体に優しいスイーツを取り入れることで、身体のバランス、心のバランスを取って欲しい。そうすることで、お客さんの罪悪感を減らしたい。優しい願いが込められています。

手の届くところから考える、“環境にやさしい”ということ

環境に配慮された材料を優先する

「環境問題と聞くと堅いイメージがあるけれど、実はそんなに難しいことではないんです」と、知里さん。『Lagom Sweets Labo』では地産地消を心掛け、身体にも環境にも負担が少ない酪農製品や農業商品、素材を使用しています。

例えば、海外産の材料を使用する場合、自宅に届くまで飛行機を利用したり、輸送する際の環境負荷がかかったりします。また、自宅に届くまで期間を有するので、保存料も必要となり、添加物も増える。環境が悪化すれば、そこで暮らす私たち自身が暮らしにくくなる。

「“環境にやさしい"は、巡って自分自身に優しくすることと同じなんですよ」と教えてくれました。

トラブルをきっかけに始まった簡易包装

地球に優しくすることで、お財布にも少し優しくなる「簡易包装」

簡易包装については、ショップオープンの前から悩んでいたという谷口さん。商品を取り寄せた際、商品箱が包装紙に包まれ、更にそれが段ボールに入って……という過剰包装に疑問を持っていたそうです。

オンラインショップのオープン日が近づく中、ケーキの内箱デザインがオープンに間に合わないことが分かりました。そこで考えた末、あくまで"自宅用"として発送用の段ボールに直接商品を入れ、ドライリーフやロゴのシールを貼って、内箱を使わないことにしたのです。

すると客からは「簡易包装でも問題ないからギフトで贈る」という声や、「ケーキを何重にも包装された豪華な箱を捨てることに罪悪感があったからありがたい」という声が届きました。“オンラインの商品に箱は必須"という思い込みに囚われていた自分に気が付いたそうです。

それからは用途に合わせて、のし対応や内箱、ラッピングにも対応し、簡易包装を希望する場合は割引価格で提供することで“バランス"を取っています。

商品にデコレーションを施した誕生日ケーキ

「『お誕生日にケーキがあると嬉しいし、たまには食べてもいい』、そう思えるようになったのは、自分のバランスを取るようになったから」

オーガニック商品や無添加の商品、無農薬野菜を100%取り入れることは難しいからこそ、0か100ではない、バランスを大切にしていくこと。谷口さん夫妻は、今日も身体と心の声を聴き、やさしい商品を作っています。

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