かつ丼倍増は5キロ超! 高知県大豊町の人気食堂で見た店主のおもてなし精神

ひばり食堂(高知県大豊町)の「かつ丼倍増」(税込1800円)
テレビ番組などで活躍するフードファイター以外の完食者は、ここ10年で10人以下。大食い自慢の猛者たちの心を、いとも簡単にへし折るような超巨大かつ丼が、高知県大豊町にあります。その重量は、驚異の約5.4キロ(皿の重さを除く)。トンカツは揚げる前で約800グラム、ご飯だけでも6合ほどあるそうです。
「決してデカ盛りチャレンジをやっているわけではない」というこの店で、なぜそんなメニューが生まれたのか。「ひばり食堂」店主の小笠原主仁(かずひと)さんに取材しました。
四国のほぼ真ん中に位置する、高知県大豊町。四国山地の山々や、町の中央部を流れる吉野川が美しい、自然に囲まれた町です。昭和の大スター・美空ひばりさんゆかりの地としても知られています。
そんな美空ひばりさんにちなんで名づけられたという「ひばり食堂」は、今から約40年前に創業。高知自動車道・大豊ICの近くにあります。午前11時半から午後2時半までの営業で、お昼時は行列が絶えない人気店です。隣は精肉店で、どちらも小笠原さんが営んでいます。
丼ものやラーメン、定食など、数々のメニューが並ぶひばり食堂のなかでも、かつ丼はオープン当時からある、屈指の人気メニューです。
通常サイズでも、約1合のご飯にトンカツ約200グラムが乗っていてボリューミー。大盛(+200円)はその2倍の量。さらにその上を行くのが、倍増(税込1800円)なのです。
その調理工程を見せてもらいました。
トンカツには、精肉店も営む小笠原さんが、「美しさ」にこだわった豚バラ肉を使用。大量に盛られた玉ねぎの上に、揚げる前で約200グラムのトンカツを、4枚も乗せていきます。
小笠原さんが特にこだわっているのが、たっぷりの卵。倍増では、12個~13個を使用します。
「僕は白い飯が見えるかつ丼、嫌いなんよ。なんか上にちょっとのっちゅうだけみたいな。卵のとろとろ、おいしいと思う。あれ好きなんよね」
器は、高知県の郷土料理、皿鉢(さわち)料理に使われる大皿を使用。約6合の白米の上に、2人がかりで盛り付けをしていきます。
こうして完成するのが、総重量約5.4キロ(皿の重さを除く)の超巨大かつ丼。その迫力に食べる前から圧倒されます。
もちろん、その味も絶品。精肉店こだわりのトンカツだけでなく、小笠原さんが自分で作っているという大豊町産のお米が、より一層食欲をかき立てるのです。
ひばり食堂はもともと、すべてのメニューがボリューム満点です。
「ここ田舎やん。遠くから来たら、1時間とかそれぐらいかかる。ちょっと量、多めに盛っとかんとよ、途中で腹減ったらまた食わないかんやん。山来たら精一杯ね、ご飯だけでもいっぱい、というのはあって」
とはいえ、かつ丼倍増を始めた当初は、通常の3倍ほどの量だったそう。それが、完食する客を見るたびに4倍、5倍と徐々に量を増やしていったそうです。
「何でも進化するやん(笑)止まったらいかんがよ、前を向かな(笑)」
こうして生まれた6倍のかつ丼倍増ですが、値段は通常サイズの2倍の1800円(税込)。ここにも、小笠原さんの思いが秘められています。
「原価から言うたら、3000円~4000円かかる。金額は僕も安いと思うよ。たぶん作っただけ、後ろへ行きよると思う。けど、3000円4000円のを食べても『当たり前』って思わん? けど、1000円2000円のあれやったら『安かった』って思う。『食べた価値があったな』って。そこの価値観を大事にしたかった」
誕生のきっかけ、ボリューム、値段、すべてが“お客さんの満足”を考えての、小笠原さんの粋な計らいだったのです。
「『食べたよ』っていう言葉もええですよね、響き。『おいしいよ』って言われるのと一緒で」
かつ丼の他にも、ここならではの、いのしし肉を使ったメニューなど、食欲をかき立てられるメニューが盛りだくさんの「ひばり食堂」。高知県、そして大豊町を訪れた際には、ぜひ立ち寄りたい名店です。