香川県高松市の久本酒店は、18日解禁となったボジョレー・ヌーヴォーを、予約だけで1000本売り上げている。そこに一役買っているのが、取り扱いのある1本1本について生産者や味のことを丁寧に綴った手作りの冊子だ。

冊子のタイトル、ボワ・アン・ク―プ(Boire Un Coup)は、農作業を終えた夕方にボジョレーでよく聞こえてくる声かけ「ま、一杯やろう」

この冊子、作り手のこだわりに特化している点が珍しく、東京のインポーターからは、「今年も凄い!! ボジョレー大使と言っても過言じゃないし、世界で一番のボジョレー・ヌーヴォー取り扱い業者でしょう。パリの事務所と生産者に渡します!」という声が寄せられている。

今回のテーマは、いまなぜ「ガメイ」なのか

日本語の読めないフランスの醸造家たちにも届けられるこの冊子。4年ほど前、掲載された生産者のトリシャールさんは、冊子を持って銀行に融資を頼みに行った。「俺のワインは日本のマーケットでこんなにも必要とされている」と。結果、資金繰りは叶ったという。

ボジョレー地区の生産者、シルヴェール・トリシャールさん

すべては生産者との出会いから

冊子づくりは、12年ほど前に店長の柴田さんがチラシを作ったことに始まる。その後、柴田さんがスタッフの山田雪絵さんと協力して、冊子化した。生産者を一人一人紹介したいと考えたからだ。山田さん自身は当初、ボジョレー・ヌーヴォーにはまったく興味がなかったと言う。

「おいしいと思っていませんでした。ところが、フランスのワイナリーに視察に行った時に、飲んだ瞬間イメージがひっくり返りました。ジャン・クロード・ラパリュという生産者で、今年の冊子では巻頭を飾っています。ぶどうそのもののピュアな味わいに感動しました。ぜひ、みんなに飲んでほしいと思いました」

ジャン・クロード・ラパリュのぶどう畑 2019年7月

フランスで出会った生産者たちは、総じて人柄が温かく、畑で話をきくたびに、ワイン造りへの情熱に心打たれると言う。会えば会うほど、もっと伝えたいと思いは募るそうだ。

「生産者の人となり、どういう人がどういうふうに造っているかを伝えたい、ただそれだけ」

ボジョレーワインの礎を築いた故マルセル・ラピエールの家族と山田雪絵さん。「生涯をかけて一人でも多くの生産者に会いたい」と言う。

ブームではなく、そのものの価値を

久本酒店のボジョレー・ヌーヴォーはすべて自然派ワイン。畑に真摯に向き合っていること、ぶどうのポテンシャルを100%引き出せる醸造家が造っていること、理由はその2つに尽きる。

ボジョレー・ヌーヴォーの価値を「今年の出来を占う新酒」とは違う角度から伝えてきた久本酒店の冊子は、今年もブレずに伝え続ける。「ボジョレー・ヌーヴォーは、透明感のある果実味と伸びやかな酸の織りなす極上の一杯」と。

今年の冊子の象徴、黒ぶどう品種”ガメイ”

2021年は、4月の芽の出る時期に霜の被害に遭い、ブルゴーニュ地区全体のぶどうの収穫量が激減した。気候変動が激しくなる近年、生産者の苦労は計り知れず、そんなことを思い浮かべて飲めば、今年のボジョレー・ヌーヴォーは、また感慨深いだろう。

「ボジョレー・ヌーヴォーは、土質の違いや収穫のタイミング、生産者の個性の違いがダイレクト伝わるワイン。飲みやすくて家庭料理にも合うので、気取らずに楽しんでほしいです」と山田さん。

人から人へ。生産者の情熱が、情熱的なメッセンジャーを経て、私たちの食卓に届けられている。

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