香川・小豆島の三都半島(みとはんとう)を舞台にした現代アート展「三都半島アートプロジェクト2021」が11月6日からスタートしています。三都半島の南端にある神浦(こうのうら)地区に点在する空き家を会場に、14人のアーティストの作品が展示されています。

アートディレクターの友定睦さん(右)とサポートスタッフのメンバー

今回で8回目を迎えるこのアート展。作品を制作しているのは広島市立大学芸術学部の教員や学生を中心としたメンバーで、何度かに分けて小豆島を訪れて制作を続けてきました。三都半島アートプロジェクト2021のアートディレクターである友定睦さんは、コロナ禍での開催の苦労をこう話します。

「静かの海に」岡田祐人

「当初は9月に開催を予定し準備を進めていましたが、全国的なコロナウイルスの蔓延により一度は中止を余儀なくされました。しかし、10月から行動制限が解除され、地域の方々の理解や協力を得て、無事開催できることに。作品制作から展覧会の準備までイレギュラーなことばかりでしたが、こうして開催できたのはアーティスト、運営に関わる方々、地域の方々すべてが柔軟な対応をしてくださったおかげです」

「Worker's shadow」三松拓真

「三都半島アートプロジェクトは当初から、地域の公共空間を利用して展覧会を実施しています。今回もコロナ禍で注意すべき3密を避けた展示構成となっているので、安心して鑑賞してください」

「出水邸鍾乳洞」の作者、松本千里さん

会場に来ていた制作者にも話を聞くことができました。広島市立大学芸術学研究科 造形総合芸術博士後期課程在籍中の大学院生、松本千里さん。三都半島アートプロジェクトへの参加は今回がはじめてです。

会期初日の朝まで、現場で作業をしていたそうです

「プロジェクトに参加することになって、みんなで場所の下見に来ました。ここは納屋だった建物なんですが、残されている道具や建具はどれも使い込まれすり減って、木材の角の部分が丸くなったりしているんですよね。そこに人々の長い暮らしや営み、この場所に染みついた歴史のようなものを感じたんです。そこにインスピレーションを受けて、この作品が生まれました」

白い布を細い糸で縛っています

伝統的な染色技法を学んだ松本さん。その技法のひとつであるしぼり染めで、染める前のひもで縛った状態の布を表現の素材にしています。一つ一つ手作業で作られた「しぼり」には時間の蓄積があります。またしぼり染め自体も歴史ある伝統的な染色技法であり、さらにこの納屋という場所にも生活の歴史が残っている。ここで何を表現するかと考えたときに、時間をかけて作られた自然の造形物である「鍾乳洞」のイメージが湧いたそうです。

「水鏡」徳永成美

三都半島アートプロジェクト2021には、「海が少し見える小さい窓一つもつ」というサブタイトルが付いています。これは、小豆島で晩年を過ごした自由律の俳人、尾崎放哉(ほうさい)の句を引用したもの。病に伏していた尾崎にとって、家のなかにある“海が少し見える小さい窓”は、日常から別世界へといざなってくれる特別なものだったのかもしれません。今回の展示でも、空き家のなかに展示されたアート作品が“窓”のような役割を果たし、アーティストが作り出すさまざまな世界を見せてくれるのではないでしょうか。

神浦コミュニティセンター前や、各作品の展示場所には黄色いのぼりが立てられています

三都半島アートプロジェクトは、11月23日までの土日祝日のみ開催、入場は無料です。神浦コミュニティセンターで作品配置図を配布しており、そのルートに沿って歩いて1時間ほどですべての作品を鑑賞できます。色づく紅葉を見ながら、秋の澄んだ空気のなか芸術散歩を楽しんでみてはいかがですか。

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