讃岐の醤油醸造技術が、国の登録無形民俗文化財に

登録無形民俗文化財とは、2021年6月の文化財保護法改正により新しく規定されたもの。その無形民俗文化財の価値に鑑み、保存及び活用のために措置が特に必要とされるものが対象となります。その第一号登録として、高知の土佐節の製造技術とともに選定されたのが、讃岐の醤油醸造技術。香川県が誇る醤油の技術とはどんなものなのか、醤油ソムリエールの黒島慶子さんに聞きました。

この大きな木桶で醤油が作られます。

小豆島のなかでも“醤の郷”と呼ばれる、醤油蔵や佃煮工場が建ち並ぶエリアで生まれ育った黒島さん。醤油蔵や、醤油を作る蔵人(くらびと)の存在を、幼いころから身近に感じて育ちました。20歳のときから、小豆島を拠点に全国の蔵を訪ね、さまざまなコトや人を結びつけ続けています。

「小豆島には古くから醤油産業が息づいていて、そのなかに、木桶を使った伝統的な醤油づくりを続けている蔵が残っています。一方で、大型のタンクで品質の均一な醤油を作る会社もある。東かがわのかめびし醤油では、むしろ麹法という日本で唯一の方法で醤油を作っている。香川の醤油とひと言で言っても、本当にいろいろなんです」

木桶で作る醤油を後世に残したい

木桶が並ぶ蔵の様子。

醤油や蔵人を身近に感じて育ってきた黒島さん。やはり、小豆島の木桶仕込みの醤油づくりは、今後も受け継がれていってほしいと言います。

「木桶の醤油の特徴は、なんと言っても個性があること。蔵人の考えや技術、数字では表せない感覚的なものがすごく反映されるんです。もろみの入った木桶を櫂(かい)という道具で混ぜると、空気が入って発酵が促されます。その混ぜる作業一つとっても、いつ混ぜるか、どのように、どのくらいの長さ混ぜるか、そのすべてに蔵人の姿勢や考えが表れるんです」

ヤマロク醤油(小豆島町安田)の櫂入れの様子。

黒島さんは現在、愛知県と小豆島の2か所を拠点に活動しています。小豆島へ戻ったときは、木桶づくりの作業を手伝うことも。

「醤油ソムリエールとして、愛情がわく醤油を未来につなげていきたいと思っています。愛情のある醤油を使うと、毎日の食事が楽しくなってくると思うんです。日本人にとって醤油って、毎日口にするもの。だから大好きな醤油を選んでもらうことで、愛情ある料理、愛情ある食卓を増やしていきたいです」

木桶仕込みの醤油は、色や香り、味わいも千差万別。

「私もこの木桶づくりを手伝うようになって知ったのですが、昔の人って自分の代でいかに儲けるかではなくて、100年後、200年後の子孫が繁栄し続けるための行動をしているんですよね。自分が植えた木が、100年かけて大きく育つ。それを伐採してまた何十年も乾燥させる。それからやっと桶を作って、醤油を作ることができる。“今”儲けるためではなく、もっと長い視点で仕事をしなければいけないと、木桶の醤油が教えてくれました」

この記事の写真一覧はこちら