醤の郷に、現代アートを

この作品、現代アート好きなら目にしたことがあるのではないでしょうか。瀬戸内国際芸術祭2019の公式作品「GEORGES gallery + KOHIRA cafe」にある、アート制作の現場です。

ジョルジュギャラリーの外観。古民家の趣を残した佇まい。

2018年、“醤の郷から世界に芸術文化を発信したい”という思いのもと、小豆島アートプロジェクトが発足。第一弾として、プロジェクト代表の石井純さんの祖父母が暮らしていた古民家を現場に、写真家のジョルジュ・ルース氏が写真作品を制作しました。「ジョルジュギャラリー」と呼ばれるその場所は、アーティストと同じ場所で同じように写真が撮れると話題に。芸術祭期間中には、約31,500人が訪れた人気アートとなりました。

醤の郷現代美術館。1928年に建てられた島内最初のコンクリート建築で、当初は醤油会館として、その後は図書館として使われていた時期もある、歴史ある建物です。

現在も常設しているこの作品があるのは、醤油や佃煮の工場が立ち並ぶ、“醤の郷(ひしおのさと)”と呼ばれるエリアです。そして2021年9月1日、プロジェクト第2弾として、同じエリア内に「醤の郷現代美術館」がプレオープンしました。

子どもたちに、島の魅力を伝えたい

小豆島アートプロジェクトの代表で、醤の郷現代美術館館長の石井純さん。醤の郷現代美術館内にて。

「ジョルジュギャラリーに始まった小豆島アートプロジェクトの第2弾が、この美術館です。テーマは、“物語”のある美術館。私とアーティストとの物語、作品制作にまつわる物語、アーティストと小豆島との物語など、個人の美術館だからこそ、そういうものを大切にしながら選んだ作品を展示しています」

一つひとつの作品に“物語”があります。

美術館の展示は4つのカテゴリーに分かれています。1つ目は石井さんが友人の現代アーティストに依頼し、この美術館のために新たに制作された現代アート。2つ目は、石井さんがコレクションした現代アートの作品。3つ目は、アートドキュメンタリーの映像展示コーナー。そして4つ目が、小豆島ゆかりの作品コーナーです。

島の子どもたちを招いて、プレオープン前にワークショップを実施。今後も継続していく予定です。

「この美術館の大きな特徴は4つ目の、小豆島ゆかりの作品です。このコーナーに限っては、現代アート以外の作品も展示しています。小豆島は、昔からたくさんの画家やアーティストが訪れて作品を制作しているんです。でもその作品は島に残っておらず、島外のホテルのロビーや企業の応接室に飾られていたり、個人のコレクターが持っていたりする。そういった作品を少しずつ集めて島に里帰りさせました」

それは、“島の未来を担う子どもたちに見せたいから”と石井さんは話します。

「小豆島もほかの多くの地域と同じように、さまざまな課題を抱えています。だから私は、小豆島の子どもたちに小豆島の作品を見せたかった。自分たちの住む島がこんなに美しくて、たくさんのアーティストが作品にして、そのアートをいろんな人が見て何かを感じている。そういうことを知ることで、子どもたち自身が島を誇りに思い、未来の島の課題を解決する担い手になってくれたらと思っています」

ワークショップの最後には、自分がいちばん好きだと感じた作品の絵を描きました。

子どもたちに小豆島の作品を見せたい。その思いから、子どもを対象としたワークショップも実施しています。作品を見て率直な感想を話したり、好きな作品の絵を描いたりしながらアートに触れる楽しい時間を過ごすことで、島を大切にする気持ちを育んでいます。

レンガ造りの倉庫を改装した、MOCA HISHIO ANNEX。

醤の郷現代美術館と同日にプレオープンしたのが、小豆島アートプロジェクト第3弾となるMOCA HISHIO ANNEX。醤の郷現代美術館の別館的な位置付けで、こちらは企画展を中心に運営していく予定です。

12月20日まで、企画展「肖像画」を実施。

醤の郷現代美術館、MOCA HISHIO ANNEXのグランドオープンは、次の芸術祭が始まる2022年春。現在は、曜日を限定したプレオープン期間となっています。

「子どもたちにアートに触れてほしい」との思いから、ジョルジュギャラリー、醤の郷現代美術館、MOCA HISHIO ANNEXすべて15歳以下は入館無料になっています。「近所の公園で遊ぶように、子どもたちが美術館に集まってくれたらうれしいですね」

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