「ドヤ顔」でふるさとを語ってほしい

そんな「張り子の虎」の作り手はかつて大勢いましたが、今では田井さん1人に。これだけでは生活が成り立たないと、子どもに跡を継がせることもしませんでした。

田井民芸の五代目 田井艶子さん

中橋さんが接した伝統工芸の作り手は、高い技術を持っているのに控えめな人が多く、「いいコンテンツがあるのにうまく伝わっていない」と強く感じました。

「私は何も作れないけど、『すごいんで!』と伝えることはできる」

木育キャラバン オレンジのエプロンが「おもちゃ学芸員」

おもちゃ美術館は、単に作品を鑑賞するだけではない「体験型」のミュージアム。香川が誇る伝統工芸を活用したおもちゃや遊具に触れたり、事前に養成講座を受けた「おもちゃ学芸員」から素材や作り方について聞いたり、ワークショップで実際に技法を体験したり……。

「そんな中で子どもも親も自然と『知ってる』がたまっていき、そのうち、ドヤ顔でふるさとについて語り出す。興味を持って『買ってみよう』となってくれたら、作り手を支えることもできる。それってイイでしょう?」
中橋さんは目を輝かせます。

みんなで作る美術館へ クラウドファンディング実施中

東京おもちゃ美術館

全国に広がる「東京おもちゃ美術館」の姉妹館の中には、2021年10月にオープン予定の徳島県立徳島木のおもちゃ美術館など「公立」の施設もありますが、讃岐おもちゃ美術館は「民設・民営」です。

「役所がやると、いろいろ制約が多いから……」と、休館日を企業の貸し切りデーにしたり、夜だけカップル限定のナイトミュージアムを開催したりと、民間だからこそ挑戦できる様々なアイデアが浮かんでいます。

それでも、銀行から4000万円を借り入れるなど、これまでわははネットが行ってきた事業とは段違いの大きなプロジェクトです。中橋さんたちは香川県内の企業を回って美術館の意義を熱く語り、スポンサーを集めるとともに、インターネットで資金を募る「クラウドファンディング」も8月19日にスタートさせました。

クラウドファンディングは10月17日まで

1万円以上寄付した人は、讃岐おもちゃ美術館の「一口館長」となり、ロゴマークをかたどった積み木に名前を刻印したものが館内に展示されます。一口館長の手元には、讃岐特有の「おむすび型の山」の形をしたパーツが届き、オープン後にそれを持って来館してもらう、という楽しい仕掛けです。

一口館長の証し「おむすびつみき」(試作品)

クラウドファンディングで集まったお金は、オリジナルおもちゃや什器製作に充てますが、それ以上に「関わってくれる人を増やす」「美術館を自分ごと化してもらう」意義が大きいと言います。

中橋さんがやり取りしている香川の伝統工芸の担い手たちからも「こんなのどう?」と自発的な提案が寄せられています。
「当初の予算をオーバーしていくけど、こんな面白いアイデアを聞かされたら、実現させるしかないでしょう!」

「みんなで作る」美術館へ。その輪は、どんどん広がっています。

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