木製のおもちゃや遊具を楽しめる「讃岐おもちゃ美術館」が2022年4月、香川県高松市中心部の商店街にオープンします。「東京おもちゃ美術館」の姉妹館ですが、香川の伝統工芸や特産品にとことんこだわっているのが特徴です。子どもたちに「香川ってすごいんだ!」と感じてもらいたい。運営する子育て支援NPOの理事表に開館への思いを聞きました。

開館準備が進む「讃岐おもちゃ美術館」どんな施設?

「知らず知らずのうちに『香川ってすごいんだ、こんな人やモノに囲まれた僕たち・私たちってすごいでしょ』っていう子どもに育ってもらいたい」

5月15日、高松市で開かれた讃岐おもちゃ美術館のキックオフミーティング。高松市の子育て支援NPO「わははネット」の理事長で、美術館の館長に就任予定の中橋恵美子さんはこう挨拶し、館内のイメージ図を公表しました。

讃岐おもちゃ美術館キックオフミーティング(高松市 5月)

草木染の木綿糸を使った「讃岐かがり手まり」のドームに、小豆島の「しょうゆ樽」を改造した茶室、叩くと高音が出る石「サヌカイト」をあしらったシンボルツリーなどなど。香川の伝統工芸や特産品とコラボした遊びの空間が広がります。床に使われるのは、もちろん県産の木材です。

讃岐おもちゃ美術館の完成イメージ(一部)

讃岐おもちゃ美術館は、高松丸亀町商店街の再開発の一環として高松市大工町に建設中の大型立体駐車場の1階部分、約1100平方メートルを借りて2022年4月9日にオープン予定です。

建設工事が進む立体駐車場(高松市大工町)

運営は、「わははネット」が美術館エリアを。そして、香川の名産などを紹介する雑誌「IKUNAS」を発行するデザイン事務所「tao.(タオ)」がショップ・カフェ・ギャラリーエリアを担います。

きっかけは「子どもの自己肯定度ワースト」

わはは・ひろば高松(高松市大工町)で親子と触れ合う中橋さん(左)

中橋恵美子さんは、県外での子育てで孤独を感じた経験をもとに、1998年、地元に帰って育児サークル「輪母(わはは)net」を立ち上げました。その後、「わははネット」に改称してNPO法人となり、子育て情報誌の発行や子育てひろばの運営、子育てタクシーを発案して全国に展開するなど、香川の子育て支援、女性活躍推進のリーダー的存在として2018年には「藍綬褒章」を受賞しました。

藍綬褒章受章報告会&子育て応援感謝祭(2019年3月)

高まる社会的な評価とは裏腹に、少子化の進行や減らない児童虐待など、子育てを取り巻く課題は山積みだと感じていた中橋さん。中でも胸に引っかかっていたのが、香川の子どもたちの「自己肯定感の低さ」でした。2017年度、文部科学省の全国学力・学習状況調査で、香川県の小学6年生の「自己肯定度」は全国ワースト。当時高校生だった中橋さんの長男の同級生たちが「香川にはなんちゃない(何もない)」、「うどんくらいや……」などとしょんぼりと語りながら県外に出ていくのがとても辛かったそうです。

ちょうどそんな折、子育て支援の新たなステージとして「おもちゃ美術館」を運営するという、わははネットにとって大きなチャレンジが舞い込みました。親子のふれあいの場を提供するだけではなく、この美術館を通して「香川の素晴らしさ」を伝えられるのではないかという思いがふつふつと湧き上がってきました。

「香川のこと、何も知らなかった!」

「とは言え、まずは自分自身が香川のことを知らなくちゃ」
中橋さんは香川のものづくりの現場を巡り始めます。

最初に訪れたのは、高松市の庵治石(あじいし)の生産現場。庵治石は「花崗岩のダイヤモンド」とも言われ、磨けば磨くほど艶が出る高級石材で、高松市の庵治町と牟礼町だけで産出されています。石切場と呼ばれる採石場の様子や、石目の見方など、全く知らなかったことばかり。その後は墓参りをするたびに「あ~この家、いい石使っとるなぁ」と、石のことが気になるようになりました。

庵治石でできた墓石を見学

それまでなんとなく「古臭い、高い、扱いづらい」と感じていた伝統工芸の作り手たちのこだわりにも触れました。

香川の西讃地方で、子どもの健やかな成長を祈る縁起物として飾られてきた「張り子の虎」。三豊市の「田井民芸」の五代目で、香川県の伝統工芸士でもある田井艶子さんが一つ一つ手作りしています。

張り子の虎に使われている紙は……

ここで中橋さんが驚いたのが、木型に張り付ける和紙に江戸時代の古文書が使われていること。現代の紙とは違って丈夫で良質。江戸時代に使われていた「作付け帳」などを貼っては乾かし、貼っては乾かしを繰り返して作った張子の虎は、子どもが上に乗っても壊れません。

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