高松市仏生山町で3代続く中條鮮魚店。客とのコミュニケーションを大切に細やかなニーズに応える地域密着の鮮魚店が、9月中旬、新店舗へと移転リニューアルします。3代目店主の中條享平さんに、選ばれる店づくりへの努力とこれからのチャレンジについて聞きました。

9月中旬オープン予定の新店舗。

“選ばれる店”になるために

毎朝市場で仕入れる新鮮な魚が並びます。

店を始めたのは享平さんの曾祖父。享平さんは高校卒業と同時に店に入り、3代目店主となりました。

「店に入った当時は何も考えてなくて。ただ、祖父が魚屋をやっているから、じゃあ継ごうかなというくらいの気持ちでした。でも何年かやっているうちに意識が変わってきて。自分が結婚して子どもが生まれた頃から、このままではいけない、もっとやり方を考えなければと思うようになり、経営やお金のこと、魚のことも勉強するようになりました」

一人ひとりとの会話を大切に、細やかな接客でニーズに応えます。

「最近はSNSや動画サイトでさまざまな情報を得られるので、かなり専門的な知識があるお客さんも来られます。そういうときに、僕はプロとしてそれ以上の知識を持っていないといけない。だから魚について幅広く勉強しないといけないし、勉強は一生終わることはないと思っています」

そんな享平さんが考える、この店が選ばれる理由とは。

「やっぱり味だと思います。誰だっておいしくない店にわざわざ行かないじゃないですか。だから、おいしい魚を仕入れて提供することはもちろん、その魚をさらにおいしく食べる方法や、おいしさを長持ちさせる方法など、いろんなことを勉強してお客さんに届けていかないといけないと思っています」

焼き魚や揚げ物など、旬の魚を使った手づくりの惣菜も人気です。

また、ここ3~4年で増やしているのが、保育園や高齢者施設といった取引先。店舗での販売だけでなくこうした施設へ魚を入れることで、売上も安定しました。

「とくに食育を重視している園のなかには、冷凍ではなく生の、地の魚を園児に食べさせたいという方針の園もあります。『以前冷凍の魚を使っていたときは残す子どももいたけれど、中條さんのところで仕入れるようになってからおかわりする子が増えた』などと聞くと、うれしいですね」

「さしみ用に2人分切って」など、要望にすぐ応えてくれるのが小規模店の魅力。

より幅広いニーズに応えるため、2020年秋、除菌や消臭に効果があるとされるオゾン水生成器を導入。薬品を使わず生成したオゾン水なので、まな板や包丁はもちろん魚の洗浄にも使っています。さらに2021年1月には“究極の血抜き”と言われる津本式の認定を受けました。

「魚が傷んだりくさみが出たりするのは、結局は血が残っているのが原因。それをきちんと処理することで、より長い間おいしい状態がキープできるだけじゃなく、寝かせることでアミノ酸やイノシン酸が出て旨味が増すんです」

香川県のタコ消費量は全国トップクラス。地ダコもケースに並んでいます。

ステイホームが続き、料理に時間を割く人が増えたおかげか、ここ1年は20代~30代の若いお客さんも増えたそう。

「お客さんの疑問に応えるために僕が幅広い知識を付けるのはもちろんなんですが、もっと言えば、お客さん自信も魚の知識を付けてほしいんです。今までは切り身で買っていた魚を1尾とか半身で買って、自分で処理できるようになってほしい。そうやって、いつでも、どんな魚でも、長くおいしく食べてもらいたいんです」

鮮魚店が農業に新規参入

享平さんのさらなるチャレンジは、農業への新規参入。香川県のブランド野菜である「さぬきのめざめ」というアスパラを育てるため、この秋、補助金を使ってまず栽培用のハウスを建てる予定です。

「オリーブハマチや讃岐さーもんといった県のブランド魚と、さぬきのめざめをセットにして販売したいんです。そのためのECサイトも今準備中。初収穫は2023年春の予定なのでまだ少し先ですが、収穫できたら店舗でも販売したいです。また、規格に満たない細いアスパラは、太いものに比べてやわらかく子どもでも食べやすいので、保育園に使ってもらったり。太い軸の部分はペーストにしてスープを作ったり。いろんなアイデアを試してみたいです」

この記事の写真一覧はこちら