日が暮れ始めて多くの店が営業終了時間を迎えるなか、広島県尾道市の商店街に明かりを灯し続ける店があります。「Beer Bar a clue(ビアバークルー)」は地元の常連客をはじめ、夕方以降の尾道を楽しみたい観光客が訪れるビールバーです。

切り盛りするのはマスターの林稔(はやし みのる)さん。マスターとの会話を楽しむ客もいれば、居合わせた人同士が仲良くなるような自由な楽しみ方ができる場所です。

出迎えてくれるのは、陽気で気さくな人柄が魅力のマスター

尾道本通り商店街にあるBeer Bar a clue(ビアバークルー)は、2013年11月22日にオープンしたビールバー。JR尾道駅からは徒歩8分ほどの場所で、ハイネケンの大きな緑のフラッグが目印です。ガラス張りで外からでも中の和やかな様子がわかるのが魅力で、1人でもふらっと入りやすい雰囲気を醸し出しています。

マスターの林 稔(はやし みのる)さんは、大学卒業後に保健体育の教師として生徒を指導していた経歴の持ち主です。
『きょう取材か!待って待って!着替えてもええ!?』

『どう?ビールバーのマスターっぽいかな?』と、黒ビールの王道「ギネスビール」のTシャツとキャップをかぶった姿になって再登場です。

常連客から聞いた、マスターの印象は、
「楽しくて頼もしいというよりも、気安く話せる」
「林さんと話しているお客さんがみんな楽しそう」
「言葉が通じなくても相手を楽しませる天才」
明るくて楽しい人柄に癒やされて通う人が多いことがわかりました。

常時60〜70種類!マスター選りすぐりのクラフトビール

注文は店内にあるビールサーバー(全7基)、もしくはそのとき店にある瓶や缶のビールを選ぶスタイルです。「クラフトビールは詳しくなくて……」「何を頼んだらいいのかわからない」という人でも、マスターに好みを伝えればおすすめのビールを紹介してもらえます。

なお瓶や缶の店内飲食の場合には、小売価格プラス200円(税込)が必要です。

おさるIPA(税込700円)

よく飲まれているのは、大阪府箕面市で造られている箕面ビール「おさるIPA(税込700円)」。注いだ瞬間からホップの香りが鼻をくすぐる、ビール好きにはたまらないIPAです。

※IPAとは、India Pale Ale(インディアペールエール)のことで、大量のホップを使うことによる苦味が特徴。

箕面ブリュワリーで造られるクラフトビールは全国的にファンが多く、この「おさるIPA」も最初は季節限定だったものが人気により定番商品になったのだとか。しっかりと苦味はあるものの酸味もあり爽やかなので、一杯目としてもおすすめのクラフトビールです。

駆け込み寺のようなビールバーを目指して

ここからは、マスターの林さんへのインタビューです。

──ビールバーを始めた理由を教えてください。

林(敬称略)──
ビールを通して人と関わり続けられること、思いを発信できることが魅力で、「clue=きっかけ」の名を冠したビールバーを始めました。人って、日々モヤモヤした気持ちを抱えて生きているじゃないですか。1日の終わりに、ビールを飲みながらそういった思いをポツリポツリとでも話してもらえたら、きっと少しは心が軽くなるんじゃないかと思います。

私は大学卒業後に10年ほど教員をしていたんですが、生徒と接してきたその経験が今になって活かせていると感じます。自分にとっては、そのとっかかりがビールだった。これからも駆け込み寺のようなビールバーでありたいと思っています。

しまなみIPA(税込800円)

──マスターとビールの出会いを教えてください。

林──
いわゆるラガービールを「おいしい」と思い始めたのは30年前、23歳ごろです。さらに30代後半くらいでベルギービールに出会いました。

以前、岡山にあった小洒落(こじゃれ)たバーでベルギービールを飲んでいたんですが、そこで初めて「ビールって飲んでおいしいだけじゃなくて見た目にも楽しいんだな」「ビールって面白そう」ということがわかって、ますますビールが好きになったんです。それからはアメリカビール「ラグニタス」のおいしさにも目覚めました。ラグニタスの「リトルサンピン」がまた、ものすごくホップが効いていて良い苦味で!最初は「なんじゃこりゃ」と思ったんですが、徐々にその苦味にハマっていきましたね。

こうやってさまざまなビールのおいしさを知っていったことで、ベルギービールもあるけれどアメリカのビールや国産ビールもあるような、賑やかなビールバーができたらいいなと思うようになりました。

──しかしビールといえど種類が多く、また造り方や醸造家の思いもさまざまですよね。たとえば国内のクラフトビールはどうやって知っていったんですか?

林──
ビールについては、近隣のビールバーに足繁く通ったりビールイベントに参加するなどして探っていました。また旅行が好きなので、日本のどこかでビールイベントが開催されると知ればよく飛んでいっていましたね。こうしていくつものビールイベントに参加しているうちに多くのブルワー(醸造家)さんと出会うことができて、会って話すことでそのビールのファンになっていったり。それがきっかけで今も仕入れさせてもらっているビールがあるくらいです。

そのほかにも、父のように慕わせてもらっている大阪の酒屋さんをはじめ、ビールを通じてさまざまなご縁がつながって今があります。特に鳥取の大山Gビールの岩田さんを訪ねた際には、ホップ畑や麦畑に連れていっていただいて伏流水の秘密やビール造りのことなどたくさんのことを教えてもらいました。

ビールは人と人をつなぐツール

──これまで参加したうち、もっとも印象的だったビールイベントはなんですか?

林──
岩手県一関市で行なわれる「全国地ビールフェスティバル」です。一関の地ビール「いわて蔵ビール」を造っている​世嬉の一(せきのいち)酒造が仕掛けたもので、日本ではさきがけにあたるビールイベントなんですよ。全国のビール醸造家が集まり、さらに全国各地から多くのビール好きが集まってくる一大イベントで、ファンの間で一関は「ビールの聖地」と呼ばれているほど。それまで衰退しつつあった酒蔵がこのイベントによって盛り返していくのを目の当たりにして、ビールの可能性を感じました。

このイベントで、箕面ビールの大下香緒里社長に声を掛けてもらえたことも印象深いです。私はよくほかのビールイベントでも大下社長のことを拝見していたんですが、花形的な存在なのでなかなか話しかけられなくて。そんな社長から「よくイベントに参加している熱のあるヤツ」だと思ってもらえたならうれしかったですね。ビールは人と人をつなぐツールだと改めて実感しました。

──Beer Bar a clueをどんなビールバーにしたいと思われていますか?

林──
「来る者拒まず」なビールバーにしたいと思ってやっています。もちろんビールバーなんですけど、別にビールが飲めなくてもいいんです。夏には涼みに、冬には暖を取りに。誰もが肩肘はらずに、気軽に扉を開けて入ってきてもらえるような店を目指しています。

左:Beer Bar a clueオリジナルのクラフトビール第2弾 やまなみヴァイツェン(税込800円)

──店に置いているビールへのこだわりはありますか?

林──
これまで各地のビールをいろいろと見てまわってきたこともあるので、こだわってはいるんです。本当は。語りたいウンチクがたくさんありますし、注ぎ方にだってこだわりがありますよ。でも私は、ただただシンプルにビールが好きな人間なんです。

ビールって、ワイワイと楽しく飲んだり一人で静かに飲んだり、十人十色の楽しみ方がありますよね。「こうでなくちゃいけない」なんて決まりは、ビールにはないと思っています。なので最近では「こだわらないことがこだわり」をモットーにしています!

──林さんは「おのみちBEERフェスタ」など、中国・四国のビールイベントの実行委員としての顔がありますよね。

林──
自分が初めて立ち上げから携わったのは、2014年の「おのみちBEERフェスタ」です。先ほどお話しした大山Gビールの岩田さんにブルワーさんを紹介してもらったりしてなんとか実現しましたが、このときはもう、本当にわからないことだらけでしたよ……! とにかくがむしゃらにやって、ボランティアのかたがたにはかなり助けてもらって。打ち上げでは感極まって号泣してしまいましたね。

──「おのみちBEERフェスタ」から1年後、2015年には「松山BEERフェスタ」の立ち上げに関わることに。

林──
最初は「尾道の人間がなんで愛媛県でビールイベントをやるの?」となかなか相手にしてもらえず苦労したんですが、イベント場所の確保や許可のために松山市役所や愛媛県庁に何度も何度も通って、無事開催することができました。地元のカラーも出てとても盛り上がり、良いイベントになったと思います。私自身、第1回以降は実行委員から離れていますが、コロナ禍でも工夫しつつ今もイベント自体が脈々と続いているのはうれしいですね。

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