岡山県奈義町で2021年春、地元の昔話や民話を語り継ぐ『なぎっ子おはなし隊』が結成された。奈義町には『なぎ昔話語りの会』という団体があり、町内外の様々な施設で活躍中だ。そして今回、その子ども版として、一緒に参加していた子どもたちを正式に命名し、なぎっ子おはなし隊は始まった。

今回はメンバーの1人、小学4年生の寺坂昇(のぼる)君に話を聞いた。

なぎ昔話語りの会との出会い

初舞台さんぶたろう出版記念講演会にて(母:優子さん提供)

寺坂君が初めてお話し会に参加したのは小学2年生の頃。岡山県の作州地域に伝わる巨人伝説『さんぶたろう』の冊子出版記念講演会でお話し会が開催され、そこで初舞台を踏んだ。子どもたちがさんぶたろうを語るというもので、なぎ昔話語りの会と交流があった父の信也(しんや)さんから提案があり、母の優子(ゆうこ)さんも背中を押したのがきっかけで参加したのだった。

初舞台の時の感想を聞くと「めっちゃ緊張した!」と話してくれた寺坂君。お話し会の後、友達から「見たよ」と言われて嬉しかったと話す。『もっと聞いてほしい』という気持ちが心に芽生えた瞬間でもあった。友達の言葉も励みになっているのだ。

図書館でのお話し会(母:優子さん提供)

「勧めたものの、まさか続けるとは思っていませんでした」と両親は話す。昔から絵本や本が特別好きだったわけではなく、3人兄弟の中で一番絵本を読まなかったんだとか。

「でも、この子だけ読み方が違ったんです。新鮮な響きがあった。人の心を掴むというか」(母・優子さん)

なぎ昔話語りの会で制作したオリジナルTシャツ

お話しの難しい所は、「自分は早口だからゆっくり語ること」と言う寺坂君。父の信也さんと一緒にお風呂で練習し、苦手が克服できるようにしているそうで、小学校で出る音読の宿題の時も意識をして練習するようにしているそう。

挑戦から学ぶもの

なぎっ子おはなし隊が語る内容は昔話だけではなく、自分で創作した架空のお話しも含まれる。

寺坂君が創作した物語の台本(母:優子さん提供)

寺坂君一番のお気に入りは、自身が考えた昔話『いよかんたろう』。お風呂上りにみかんを食べていた時に思いつき、主人公を「みかん」から「いよかん」に変えて作った。怠け者だった「いよかんたろう」が切磋琢磨し鬼リンゴ退治にいき、旅をしながら成長していくストーリーは、昔話から飛び出してきそうだ。寺坂君が話した内容がとても面白かったので、信也さんがまとめて編集、親子で生み出した傑作はYouTubeでも配信されている。

2021年、初挑戦した昔話コンテストは、コロナ禍のため音声データを送るというものだった。コンテストに応募した理由は「豪華賞品が欲しかったから」とお茶目な面も見せてくれた。寺坂君は創作部門で、お気に入りのいよかんたろうを抜擢した。コロナ禍で遠方まで出向くのは難しいが、録音選考だったからこそ挑戦できたという。

惜しくも入賞は逃したが、「お話しを作ってみたり、興味を持ったりする姿の昇をこのまま応援していきたいと思います」と優子さんは話してくれた。

今後の活躍を見守る

母:優子さん(左)昇君(中)父:信也さん(右)

寺坂君は今、ヘアドネーションにも挑戦中だ。

「ヘアドネーションのきっかけは、山陽新聞に主人の知り合いが親子でヘアドネーションをされた記事があり、主人がその話しを行きつけの美容院で話題にしていたら、『昇君もサラサラヘアーをやってみたら?』と言われたのが始まりで。髪をちょっと伸ばしてみたかった昇も、じゃあやってみようかなと決めたそうです」

寺坂君の決断を、どこまで意思が続くか分からないと話しつつも優しく見守る優子さん。人のために頑張る、挑戦していく昇君の今後の活躍を私たちも温かく見守っていきたい。

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