2021年8月、小豆島にオープンした切子作品のギャラリーショップ。壁一面に切子細工を施したグラスや皿が並びます。オーナーで切子作家の石川啓二さんに、着想のヒントや切子作品への思い、新たなチャレンジについて尋ねました。

ギャラリーのオーナーで切子作家の石川啓二さん。

会社員から切子作家へ

「東京の通信会社で長年働いていました。定年を数年後に控えた頃、定年後は何をやろうかなと考えるようになり、江戸切子の工房で勉強し始めたんです」

退職後は、両親の出身地である徳島へ移住。徳島で工房を構え、本格的に切子作家としてのスタートを切りました。その後、以前から夫婦で何度か訪れていた小豆島の魅力にひかれ、2020年夏、小豆島にセカンドハウスを持ちます。さらに「せっかく拠点があるなら」と切子のギャラリーショップも併設し、徳島と小豆島の2拠点での制作活動が始まりました。

小豆島のギャラリーショップ。

切子のデザインは、水や風、自然の風景からインスピレーションを受けて制作します。

「徳島と小豆島では受ける刺激が違うので、作品制作のインスピレーションも変わってきますね。徳島は、吉野川とか渦潮とか、“水の流れ”のイメージ。小豆島は逆に、私の大好きなオリーブの木のイメージですね。2拠点あることで、作品デザインの幅も広がったと思いますし、いろんな人の意見を聞けることも作品制作の参考になります」

切子作品の一つである切子グラス。

日常使いできる切子グラスを

切子グラスの制作工程は大きく分けて、カットと磨き。透明なガラスの上に色ガラスを重ねた“被せ(きせ)グラス”というグラスを使っており、表面をカットすることで内側の透明なガラスが出てきてそれが模様になります。そのままだとすりガラスのような白っぽい状態なので、カットした部分をもう一度なぞるように磨きをかけていきます。つまり模様が複雑になればなるほど手間がかかり、制作時間も長くなってしまうのです。

まずマス目状にラインを入れ(左)、それを目安にカットの工程(中)。その後磨きの工程を経て完成します(右)。

「カットだけでも、まず粗くカットしてそのあと細かい部分をカットしていくなど、段階を踏んでいきます。だからどうしても手間と時間がかかって、切子グラスの値段は高くなってしまうんです。でも私は、食器棚に飾っておくだけじゃなく普段使いしてほしい。だから、価格も1万円台に抑えています。価格を抑えるために、あまり時間がかからないデザインを考えたり、カット用の機材も安いものをアメリカから取り寄せたりと工夫しています」

そんな石川さん。2021年、イタリアで行われたエーダッシュデザインアワード&コンペティションのキッチンウエアの部門でブロンズ賞を受賞しました。水の流れをイメージし「清流」と名づけられたそのデザインは、意匠登録を受けた石川さんオリジナルのデザインです。

水の流れをイメージしたオリジナルデザイン「清流」。国際デザインコンペに出品した切子グラス。

切子の魅力を届けたい

シェード部分に切子グラスを使った照明。スタンドはアイアン作家に制作を依頼。

今後は切子の魅力をもっと知ってもらうべく、小豆島でも体験教室や切子スクールを始める予定。また、ランプシェードのようにほかの作家とコラボした作品にも挑戦したいという石川さん。徳島と小豆島、それぞれの場所で違う刺激を受けながら、会社員時代とはまったく違うライフスタイルで充実した毎日を送っています。

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