7月23日に行われた東京オリンピックの開会式で注目を集めたのが、50の実施競技の「ピクトグラム(絵文字)」をパントマイムで再現したパフォーマンス。
このピクトグラムで「さぬきうどんの食べ方」を表したイラストがSNSで話題になっています。作ったのは、香川県高松市のイラストレーター、岡谷敏明さん。タイムリーな時事ネタパロディーを次々と生み出す原動力を聞きました。

さぬきうどん店での作法をピクトグラムで表現

「NARABU」(並ぶ)、「OBON」(お盆)、「DAI,SYO」(大、小)。
並んで、お盆をとり、うどんの大か小か注文するサイズを決める……。セルフスタイルのさぬきうどん店での作法を表現したピクトグラム。
TwitterやFacebookで話題を集め、計25個をあしらったTシャツも発売されました。

デザインしたのは“うどん県”香川のイラストレーター

高松市のイラストレーター 岡谷敏明さん

この「うどんピクトグラム」をデザインしたのは、高松市のイラストレーター岡谷敏明さん。7月23日夜の東京五輪の開会式中は仕事をしていて、リアルタイムでは見ていないものの、SNSなどでピクトグラムが話題になったのを知り、「さぬきうどんで作ったら面白いんじゃないか」と思いつきました。最初に「YUGIRI」や「DASHI」など5つの案を作って7月27日深夜にTwitterで投稿すると、200近いリツイートと500以上のいいねを獲得しました。

さぬきうどん「あるある」が満載!

手応えを感じた岡谷さんは、少しずつデザインを増やしていきます。さぬきうどん店では定番の「おでん」や、お客さんが自ら「ネギ」を切って入れる店、そして「玉切れ」のため、うどんにありつけず肩を落とす様子など、さぬきうどん「あるある」を多く詰め込みました。

ツルキャラ「うどん脳」五輪の開会式風に登場

香川県琴平町出身の岡谷敏明さんは、善通寺西高校を卒業後、デザイン事務所に勤務。観音寺競輪のキャラクター「銭形くん」(現在は市のマスコットキャラ)や、タウン情報誌の人気コーナー『笑いの文化人講座』のイラストなどを手掛けてきました。

しかし、独立後の仕事はチラシのデザインなどが中心に。「イラストを描きたい」という思いを募らせ、2011年に生み出したのが、ゆるキャラならぬ、ツルキャラ「うどん脳」でした。「うどん玉と脳みその形が似ている」という気づきから、うどんが好きすぎて脳がうどんになってしまったという設定のキャラクターが誕生。ゆるキャラブームにも乗って、様々なグッズ展開やイベントへの出演、企業とのコラボレーションなど活躍の場を広げていきました。

時事ネタのパロディー きっかけは「バンクシー」

うどん県覆面芸術家の作品(2018年10月投稿)

「これが、うどん県覆面芸術家の作品だ!」。
2018年10月、うどん脳の公式Twitterでのつぶやきが大きな反響を呼びました。
イギリスのオークションで覆面芸術家バンクシーの作品が落札された直後に額縁に仕込まれたシュレッダーで細断されたというニュースのパロディーで、うどん脳のイラストが細断されるとうどんの「麺」になっているというもの。

Twitterでの拡散、いわゆる「バズり」を経験し、新聞やテレビの取材も相次ぎました。「これですっかり味をしめてしまった」という岡谷さんは、その後も時事ネタを題材にしたパロディー画像をSNSに投稿するようになりました。

うどんとちくわで作ったアマビエ

新元号「令和」や新紙幣のデザインが発表された際にはすかさず「うどん脳」をからめたり、新型コロナ禍で注目された妖怪「アマビエ」をうどんとちくわで作ってみたり。一つ一つのネタの面白さもさることながら、旬な時事ネタを即題材にするスピード感にも驚かされます。それを可能にしているのは、日々ニュースをチェックする際、「何かネタにできないか」という意識を常に持っていること。そして、アイデアを思いついたらすぐに形にするのもポイントです。
「うどんピクトグラム」も、思いついてから一気にデザインし、完成したのはその日の深夜でした。それでも、「やっぱり他の人に先を越されると悔しい。自分も元となる時事ネタを見ていたのにパロディーの切り口を思いつかなかったときは特に悔しいですね」と、負けず嫌いな一面ものぞかせます。

うどん脳のライバル?岡谷さんの頼れる相棒

うどんの蒲焼き「うど重」

そんな岡谷さんの頼れる相棒が、妻の光代さん。夫の敏明さんがイラストやグラフィックデザイン、光代さんは立体作品を担当しています。話題を呼んだ「うどん脳バンクシー」も、敏明さんは最初、細断されたうどんを紙で表現しようとしていましたが、光代さんが実物の「麺」を使うことを提案。他にも、うどんで作った鏡餅やうどんの蒲焼きなど、思わずクスッと笑ってしまう作品を手作りしています。

台風で流された直島のシンボルに代わって…

それだけに留まらず、2021年1月には光代さんをモデルに「超★オバさん」というキャラクターが誕生。これまでうどん脳ではできなかったパロディーネタにも挑んでいます。8月に香川県直島のシンボル的な存在だったアート作品「南瓜」が台風の影響で流された際には、オバさんが代わりに……。体を張ったネタも多く、SNS投稿への反響はうどん脳を超えることもあります。

「いつも何かオモロイことしてるな、この人ら」

岡谷敏明さん、光代さん

「超★オバさん」誕生のきっかけは、新型コロナ禍でうどん脳が出演するイベントなどが軒並み中止となり、ファンと触れ合う機会が減ったことでした。岡谷さんのデザイン会社を支えるグッズ収入も減る中、従来のキャラクターファンだけでなく、パロディーネタをきっかけに、うどん脳やさぬきうどんについて知ってもらう「逆輸入」を狙っています。今回の「うどんピクトグラム」も、簡略化したデザインのためうどん脳っぽさが薄く、固定ファン以外からの反応の方が大きいそうです。

今回はTシャツの販売につながりましたが、パロディーネタは権利の関係でグッズ化など直接収益に結びつくことはあまりありません。それでも「いつも何かオモロイことしてるな、この人ら」と思われたいと話す岡谷さん夫妻。
今後も、香川から全国、世界へと発信できるネタを探し求めます。

この記事の写真一覧はこちら