香川県高松市北浜町に瀬戸内海を望み、西洋の雰囲気を漂わせている倉庫街があります。17年前、ここ北浜アリーの一画で子ども服の店「ピーカブーヤ」を始めたのが、トッペさんこと十川俊郎さん(以下トッペさん)です。店内には、国内だけでなくスペインやオランダなど世界各国から集めた小さな洋服がびっしりと並んでいます。

店内には洋服だけではなく帽子や雑貨も並ぶ

トッペさんは高校卒業後から23歳までをニューヨークで過ごし、洋服を買い付けて日本の店に卸していたことがあります。その当時の経験が元となり「海外の服や文化をお客様に紹介したい」という思いで店をスタートさせました。

仕入れ時のこだわり

美しい色や柄の子ども服

「現地まで行ってデザイナーから直接仕入れるなど、”現地まで行く”というのが自分にとってとても重要です」

新型コロナウイルスが流行する以前は、年に1回は必ず海外に行っていたといいます。商品の買い付けならオンラインでもできそうですが、あえて労力をかけ、直接会いに行くのはなぜなのか。

海外から届いたばかりの靴がたくさん置かれている

「デザイナーさんがどんな方なのか、どんな気持ちで作っているのかは、会うと一番伝わってきます。同じ空間で過ごして、空気感を感じて。自分でそれを一旦咀嚼して情報に変え、お客様にお伝えするということを大切にしています」

視覚や聴覚のみに留まらない、いろいろな感覚でコミュニケーションを取れる点を重視しているのだそうです。

店でのコミュニケーション

デザイナーとの直接的なコミュニケーションを大切にしているトッペさんですが、それは店にやってくる人に対しても同じです。店に来る子どもと接し、その家族と会話をする。その時間は、とても贅沢な時間だといいます。

穏やかな口調で話すトッペさん

「恥ずかしがりやな子ども、しっかりしている子ども、店内で大泣きする子ども、小学生にして既に何かを悟っているような子ども。いろいろな子がいます。子どもたちを見ていて思うのは、年齢を重ねていけばいくほど経験が積まれていくという視点もあるけれど、逆に、年齢を重ねなくてもこんなに物事を理解できるんだということです。自分は年を重ねてきたからいいというわけではなくて、今でもわかっていないことってたくさんあるんだということに気づかされますね。そういうことを常に子どもたちから教えられているような感覚です」

このような気づきに日々触れながら、子どもと一緒にトッペさん自身も成長していっているように感じるそうです。

店内には子どもが遊べるスペースもある

トッペさん自身が父親に

子ども服店の店主として子どもと接していたトッペさんですが、数年前に彼自身が父親になりました。現在は3人の子育て中です。父親になったことで、店に立つときの気持ちにも変化があったといいます。

「皆さん親としてこんなふうに感じていたんだ、とか、子どもの服を選ぶ時はこんな気持ちで選んでくれていたのかとか。わかっているつもりではやっていたんですけど、やはり親になってみないと分からなかったことではありますね」

遊び場の上ではおもちゃが販売されている

父親になったことで初めて知った感情は、それまでの経験とは全く異なるものだったといいます。

「子どもがいるというのは、今まで自分が感じてきていた喜びなどのポジティブな感情の引き出しとは別のところに、宝の詰まった大きな引き出しが増えたような感じです」

「親になって大変なことはもちろんたくさんありますが、大変さとかわいさのふり幅がとても大きいんです。めちゃくちゃ大変で、めちゃくちゃかわいい。こんなに振り回されることって、子どもがいないとないんだろうなあと思います」

父親になったトッペさんは、このような感情を店にやってくる人たちと共有することに喜びを感じるのだそうです。

トッペさん流の子育て

そんなトッペさんが、子育てで大切にしていること。それは「生きることを楽しんでほしい」という思いです。

店内の壁にはかわいらしいイラストが描かれている

「同じことをやっても、楽しいと感じる人もいればつまんないって思う人もいます。自分の心でどう見るかというのは自分にしかできないことなので、物事を良い方向に見ることが出来る子どもに育ってほしいなと思います。子どもと話すときはいつもこれを頭に置きながら話していますよ」

「例えば息子の身長は1メートルと少しで、メートルの単位で表せば小さな存在ですが、100センチと考えれば、生まれた時の50センチから今までの日々の成長の蓄積を感じることが出来ます」

このように、常に物事を多角的に捉え、見出した選択肢の中から自分の幸せの基準を満たすものを丁寧に選んで生きる。こうしたことを子どもに伝え続けているようです。

人生を見守る

「ピーカブーヤを始めた当初は小学生だったお客さんが、今はお父さんとして来てくれているんです。人生の変化を見せてもらっていますね。洋服を通じてはいるけどあまり洋服の関係ないところで楽しませてもらっています」

トッペさんから客へと商品が手渡される

オンラインの広がりに、コロナ禍。このような時代だからこそ、実店舗で直接お客さんとやり取りをすることの魅力を感じるのだそうです。

「これからもいろいろな人の経験を聞かせてもらったり、シェアしたり。そうしながら、子どもたちが成長していくのを見守り続けたいです」

子ども服店の店主として。そして3児の父として。今後もトッペさんは子どもたちと関わり続けます。

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