自作の小屋に親子3人で暮らす

岡山県津山市で、自力で建てた四畳半の小屋に暮らす一家がいます。

フリーランスの映像カメラマン・木多伸明さん(以下ノブさん)、作業療法士・渓(けい)さん、1歳の息子テラくんの3人家族です。

筆者が取材に訪れた日は、冬ながらよく晴れた昼下がり、ノブさんが小屋を改修し、渓さんが布団を干す傍らで、テラくんが軒先で元気に遊びまわっていました。

まず目に飛び込んできたのは、元気に歩き回る鶏(チャボと烏骨鶏のハーフだそう)。聞けば鶏を飼育して卵をもらい、庭で育てた野菜などを七輪で調理しているといいます。

煮炊きは竹林を伐採して作った竹炭で(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

この日の昼食は、焼きたての天然酵母パン(ノブさんの手づくり!)。オリーブオイルと岩塩をつけて熱々を頬張ります。筆者も味見させてもらいましたが、外はカリっと、噛めばモチモチの生地にふんわり酵母の香りが漂い、オリーブオイルと岩塩だけでとても美味しく、ご馳走に感じました。

1歳のテラくんも大好き、昼食の天然酵母パン。

お風呂はというと、薪式の五右衛門風で炭焼きの熱を利用したサウナ付き、トイレはコンポストトイレ(※)、美しくつみ重ねられた薪の真ん中には手作りのピザ窯……と、マンション暮らしの筆者にとって驚くばかりの暮らしがそこに広がっていました。

(※)水を使わず、 微生物の力で分解・処理するトイレ

手作りの五右衛門風呂(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

ノブさんが土で成形したピザ窯。周りには薪が美しく積み重ねられている(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

ジオデジックドーム。竹炭作りの熱を利用したサウナ・温室・お風呂(写真提供:木多伸章さん・渓さん)

一見不便なようでも、3人はとても楽しそう。なぜこんな暮らしをしているのか、夫妻に聞いてみました。

楽しく幸せな暮らし 「パーマカルチャー」に出会ったきっかけ

ノブさんは、岡山県津山市出身。大阪の映像専門学校を卒業後、東京で映画・CM業界をフィールドにフリーランスのカメラマンとして働いていました。仕事の傍ら、ワーキングホリデーを利用してオーストラリア、カナダと2度にわたり、長期間のバックパッキングを体験。その後、150人が同居するシェアハウスに移り住み、同じシェアハウスの「隣の隣の部屋」に住んでいた渓さんと出会い、結婚。

2017年には渓さんと2人でニュージーランドの北端から南端まで3000kmをハネムーンとして歩き、そのままアメリカで有名なロングトレイル「パシフィック・クレスト・トレイル」4200kmを1人で歩き切りました。

ハネムーンとしてニュージーランドのロングトレイルを3000kmを歩行(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

ニュージーランドの北端から南端まで3000kmを歩行する渓さん(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

「パシフィック・クレスト・トレイル」4200kmを単独歩行中のノブさん(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

合計7200kmを歩いた後、渓さんから勧められ「共生革命家」のソーヤー海さんが主催するパーマカルチャーツアーに参加します。ノブさんは当初、「パーマカルチャー」と言われてもピンときませんでしたが、せっかくアメリカにいるのだから、と軽い気持ちで参加しました。

ツアーでは、ワシントン州のブロックス・パーマカルチャー・ホームステッドやオレゴン州ポートランドなど「パーマカルチャーの聖地」と言われる場所を訪問。そこで出会った人々があまりに楽しそうで、単純に「羨ましい!」と思ったそう。地球に良いことをしている暮らしが、何かを我慢するのではなく、本当に幸せになるための暮らしなのかもしれないと考え始めました。

パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)・農業(アグリカルチャー)・文化(カルチャー)を組み合わせた言葉で、人と自然が共に豊かになるような関係を築いていくためのデザイン手法のこと。「自己に対する配慮」「地球に対する配慮」「人に対する配慮」「余剰物の共有」の4つのキーワードを基本とし、より豊かな生命を育むことができるように地球に関わっていくこと、争うのではなく喜びを分かち合うことを前提とした人間社会を築いていくこと等をめざして世界中で実践されている。 (参考:パーマカルチャーセンタージャパン http://pccj.jp/)

パーマカルチャーツアーの様子。ポートランドで交差点ペインティングに参加(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

アメリカ・ブロックスのパーマカルチャーツアー拠点にて(写真提供:木多伸明さん・渓さん)

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