岡山県真庭市の広大な果樹園の中に、フレッシュフルーツをふんだんに使った心躍るスイーツを提供しているカフェがあります。その名も「きよとうカフェ」。

きよとうカフェの外観。周りは一面の果樹園だ。

季節ごとに変わるパフェやスイーツを目当てに、1年に何度も訪れるファンもいるというこのカフェで、太陽のような笑顔で接客をしてくれた塩津美菜子さん。彼女は2020年、新型コロナウイルス感染拡大に伴って、青年海外協力隊として活動していたザンビアから、無念の緊急帰国をした1人です。

任地に再び戻れる日を待ち望みながら、日本に帰ってきている時間を無駄にしたくないと思っていた時、たまたまご縁があってつながったのが、このきよとうカフェを運営している清藤果樹園でした。思い悩みながらも、新しい道へと歩み始めた塩津さんを訪ね、ザンビアでの日々を振り返りながら、今に生きている協力隊経験や、思いを聞いてみました。

Tukesamonana(トウケサモナナ)~また会いましょう~ 大切な約束の言葉を胸に

2019年の4月から2020年の3月まで、ザンビアでコミュニティ開発の隊員として、新規作物の導入や稲作の普及活動に関わっていた塩津さん。意外にも協力隊として赴任する前は、農業の経験がほとんどなかったそうです。しかし、任地で農業に関わる中で、徐々に農業の面白さや可能性に魅せられていきました。

圃場での田植え。「初めて田植えに挑戦したところもあり、どの農家さんも草取りを含めしっかり管理してくれました。」

現地の方々としっかりコミュニケーションがとりたいと、現地語を猛勉強して習得し、農家さんたちとの信頼関係を築いていきました。農家さん、お母さんたち、地域のボランティアメンバーなど様々な人と直接話をし、自分に出来ること、相手が必要としていることをすり合わせながら活動を決めていたという塩津さん。日本には当たり前にあるものが、ザンビアにはない。あるものを工夫して使ったり、しっかり対話をしてお互いにアイデアを出し合ったりしながら、少しでもザンビアの人たちの暮らしをよくしていくための試行錯誤の活動を続けました。

言葉が通じなくても、一緒に踊るとみんな笑顔になる、仲良くなれる、塩津さんにとって、踊りはとても大事なコミュニケーションの一つだったそうだ。

ワークショップなども取り入れてみたという塩津さん。やるだけで終わらず、この前やってみたワークショップはどうだったのか、なぜ実行できないのか、グループごとにどんな悩みがあるのか、また農家さん個人の今後の目標や挑戦したいことなどを聞き、活動の経過を一緒に楽しむことが出来たことで、やりがいや手ごたえを感じました。

そうした地道な働きかけのかいあって、農家さんたちにとっては初めての稲作にも関わらず、挑戦してみたい、教えてほしい、と多くの農家さんが試験圃場の作業に参加してくれました。

草だらけの土地を鍬だけで耕し、紐と木の枝で線を引いて播種。毎月の草取り。大変な作業でしたが、どのグループの畑も真っ直ぐに稲が植えられて、3月には黄金色になり、緊急帰国が決まった後、1カ所だけ、一緒に収穫することが出来ました。

 

一カ所だけ稲の収穫に立ち会うことができた。「大変だけど楽しそうに収穫する農家さんの笑顔が見られてうれしかった」

「来年は自分の畑で挑戦する!と、嬉しそうに収穫する農家さんの笑顔が見られて、幸せでした」

Tukesamonana(トウケーサモナナ)は、「また会いましょう」の意味で、普段から村を離れるときに使っていたそうです。コロナ禍で緊急帰国したときにも、この言葉でお別れをしてきたので、塩津さんにとっては大切な約束の言葉となりました。

気が付いたら、どっぷりはまっていた果樹園での日々

緊急帰国が決まった時は、すぐにまたザンビアに戻ってこれるだろうと、楽観的に考えていました。ところが、世界を取り巻く状況は日に日に予断を許さない状況となり、日本での待機が長引くにつれ、「今ここでできることはなんだろう?」と考えるようになりました。

農業の知識や経験を増やしていきたいと思い働き始めた清藤果樹園は、桃やぶどう、梨といった多品種を栽培し、生産から販売までを手掛けており、果物の収穫期である7月以降は、全国からのお客さんで直売所が賑わいます。

塩津さんは、果樹の栽培から贈答品の発送作業、カフェの運営やメニューの開発まで、何でもこなし、今では農園にとってなくてはならない存在となりました。

ありとあらゆる作業をこなす塩津さん。

繁忙期は朝から晩まで農園に出て作業にあたる。

ここで提供されているスイーツは、果樹園で育てたフルーツや、地元で栽培されたものを使っていて、見た目の可愛さだけでなく、味や食感にもこだわり、一つ一つ丁寧に作られています。素材の良さを生かし、お客さんに喜んでもらえるものを提供したい。そんな塩津さんのこだわりや思いが感じられるものばかりです。

焼き菓子も手掛ける。素材の味を生かしたシンプルで飽きのこない味だ。

今大人気の「いちごと梨のパフェ」は、甘いいちごとトロリと溶けるクリームの中に、梨のサクサクした瑞々しさと、クランチのザクザクした歯ごたえが、なんとも言えない絶妙なハーモニー。いろいろなパターンで作る中で、食感の驚きや新鮮さを入れたいと、考案しました。

いちごと梨のパフェ。見た目だけでなく、食感の面白さも味わってもらえるように隅々まで工夫されている。

もともとは繁忙期だけの手伝いのつもりでしたが、
「気が付いた時には、抜けられなくなっていました(笑)」。

今後は農業を通して、社会課題に取り組みたい。

大切に育てたきよとうのぶどうと、素材のおいしさを生かして考案したパフェ。

いろいろな仕事を任されるうち、しっかりとここに根を張っていきたいという思いが強くなりました。青年海外協力隊としての任期を短縮し、この春からは農園に新たに設立される販売会社で、社員として本格始動していく予定です。
また農園で働く中で、日本の農業を取り巻く課題を知り、農業を通した社会課題の解決に貢献したいという思いが次第に強くなっていきました。

「収穫時期だけの販売ではなく、加工品などを作り、年間通して商品を提供し、フードロスや、農薬の問題といったことに意識を向けた取り組みをしていきたい」
「海外の方を招いた研修や、体験農園など、さらなる農園の活用も検討していきたい」
「ゆくゆくは、農業を今後やっていきたいという人たちが、体験的に農業に関われるような取り組みも提案し、農業界の働き手不足の解消にも貢献したい」
「果物と一緒に、生産者や贈り手の思いやストーリーを贈るという、新たなギフトの形を模索していきたい」

夢は膨らむばかりです。

塩津さんは農園での仕事の傍ら、ザンビアでの協力隊としての体験も伝えていきたいと、JICAのイベントや地元の学校などで体験談を話しているといいます。

ザンビアに行ったからこそ知った、農業の面白さや可能性。

実際にザンビアで暮らし、人と関わったことで、今後自分がどういった方法で、どういった人たちの助けになりたいのか、ということが少しだけ明確になりました。日本では先人たちが生み出してきた既存の便利なものがありますが、そういったものがないザンビアでは、あるものを工夫して使う、アイデアを出し合うという工程がとても多く、大変な反面、発見もたくさんありました。そうした創意工夫をこらした協力隊での経験や、実際に開発途上国で生活した経験が、今に生きています。

試行錯誤の日々を、楽しそうに駆け抜けていく塩津さん。今後きよとうにどんな風を吹き込んでくれるのか、目が離せません。

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