消費者が選ぶコンセプト

「物を大切にする」

シンプルではあるが、開業当時から2人が一番大事にしていて、一番こうなって欲しいと思いながら始めた原点だ。それは決して「物質的な物だけではなく、ゆくゆくはいろんなことに繋がっていくこと」だと語る。

修理時、受け取った靴を開けてみると、もともとの作りが分かり、直してずっと使うように作られているのか、逆に直す用には作られていないのかがすぐ分かるそう。買うときにどちらの靴を選ぶかは、結局は消費者次第だ。

「一個の物でもずっと何代も繋がって、ずっと思いながら大切にしていくかって、買う時から決まっていて。自分が所有する段階から決まっていると思っていて、そういうところに響けばいいな」

丁寧な作業が続く

消費者が選ぶため、どちらか一方が正しいという正解は無い。

ただ、しっかりとした物を知っていて、それが直せるということも知っていて、直す喜び、使い続ける喜び、それにしかない価値を知り、豊かさを持ってもらえればうれしい、というのが店を始めた当時から2人がコアに置いている部分だ。

次の世代にも影響を及ぼす空間

「これって直す価値あります?」

2人はこの質問を頻繁に受けるが、その時は「私たちには分かりません」と答えている。それは当事者自身にしか分からないことだから。直したらどれくらいの費用がかかるというのは言えるが、そこから先は本人に選んでもらうことになる。

修理とは、お客様にとっての選択肢の一つであり、買った方がその人が満たされるのであれば、買う方を選んだ方がいい。その先はお客様自身で決める必要がある。それぞれの価値観だからだ。

店内には手入れされた様々な修理工具が並ぶ

「この価値観には訓練も影響するのかもしれない。」

ある時、バッグの修理代を伝えると、聞いていた子どもが思わず「高(い)!」と声を出してしまうことがあったとのこと。そのとき母親は「高くないよ。できないことをやってもらうんだから全然高くないんだよ」と諭したそうだ。

家族連れで来店する人の中でも、両親が直す人であれば子どもたちも同じような価値観となる。中学生くらいになると「(親が捨てたらって言ったとしても)いや、あそこだったら直してもらえると思って」と言いながら修理に出してくる子もいるそう。

修理する側の特権から見えてくること

「修理屋の特権なんですよ。ほんとにその物とか人生とかをちょっと覗かしてもらったり」
「それって絶対に売っている、製品を作っている方にはない、時を刻んできたからこそ持っていて、しかもそれを開ける権利を持っているというか」
と、2人は楽しそうに語る。

修理すると、時代や世代を超えて物は次へと伝わっていく。

しかしこの店内では、物の継承だけではなく、価値観の継承、物を大切にするというコアの継承がなされる場となっている。

最後に、今後の展望を聞くと「今、製作の幅を広げているところ。財布やペンケースなどの小物も出したい。それができたら外に持って行って売ることができるし、そういうのでまた広がるのかな」と。

大切にされるように作られた物が、この地域にあふれる時期はそう遠くないのかもしれない。

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