「コロナでもやるし、コロナじゃなくてもやる。色々と制限がかかる部分はあるけど、考えることが余計に増えるくらいのことだと思っているので」

そう力強く語るのは、関西を拠点に、廃業寸前の銭湯を継業する団体「ゆとなみ社」の代表・湊三次郎さん。

今回の取材では、25歳という若さで京都の「サウナの梅湯」の営業を引き継いだのを皮切りに、次々とまちのお風呂屋さんの継業を果たしてきた彼が、このコロナ禍において、どのような思いで銭湯継承の活動に取り組んできたのかについて迫ります。

若き銭湯活動家として、「サウナの梅湯」の再興を実現

かつての五条楽園近くに輝くネオンサインは梅湯のシンボル

大学への進学を機に、地元・静岡から京都へと移った三次郎さん。高校時代に出会った銭湯が日常に溶け込んだのは、この時期のことでした。自宅近くのお店に通い続けるうちに興味が湧き、京都市内の銭湯を訪ね歩くようになったといいます。

「どんどん巡っていくうちに好きになって。その一方で、どんどん廃業していく銭湯に対して、何かできないかなと思って」

そんな思いを出発点に、学内で銭湯サークルを立ち上げ、「銭湯活動家」を自称するように。大学卒業後、一度は就職するものの、「会社を通じて温浴業界に携わる」という当初の目論みがすぐには実現できないと悟り、退職を決意します。その矢先、転機は急に訪れました。

梅湯の浴場。「深夜2時まで」という営業時間の長さも、集客を伸ばした要因のひとつ

当時、三次郎さんがアルバイトとして番台を務めていた梅湯のオーナーから、廃業を検討している旨が告げられたのです。自身の退職と廃業のタイミングとが一致していたこともあり、思い切って継業の話を持ちかけたところ承諾を得られ、梅湯の経営を引き継ぐに至りました。

「かなり自信はありましたね。っていうのは、何にも知らない無知だったので」

若さゆえの無鉄砲な部分はあったものの、「若き銭湯活動家」として数々のメディアに出演したことが功を奏し、梅湯は一躍人気のスポットに。数多くのお客さんが足を運ぶようになりました。

手前には薬湯、奥にはジェット風呂も

2018年には、銭湯経営を継承する団体として「ゆとなみ社」を設立。その後の1年間で、滋賀の都湯、容輝湯、さらに京都の源湯と、一気に3軒の経営を担うようになりました。

しかし、それらの運営が軌道に乗る間もなく、2020年3月から日本でも新型コロナウイルスが流行。梅湯においても、それまでは1日あたり平均260人を保っていた客足が、160人ほどに落ちたといいます。しかし、そのような状況にありながらも、落ち着いた口調で三次郎さんは語ります。

「たぶん、ほかの業種よりは困ってないですね。まあ早く(コロナが)収まるしかないと思うので。いまやってることを着々と進めて、ひどくならないようにするっていう。もうあとは国がやることだと思うので」

非常事態だからこそ再認識した銭湯の魅力。そして、深まる銭湯観

「僕自身、いまの状況においては(銭湯は)不要不急なものだと思っているので。家にお風呂がない人にとっては必要なものですけど、家にあるんだったら入ればいいじゃん、って思っちゃうんですよね。ただそれでも、来ちゃうんだみたいな。それって面白いっていうか、いいものが見られているなっていうのは感じますね」

非常事態であっても、いや、非常事態だからこそ、お客さんは癒しを求めて梅湯にやって来るのかもしれません。しかし梅湯のように、ファンが根強く通い続けるお店もある一方で、以前から経営状態の危うかった銭湯が、コロナ禍で廃業に追い込まれるケースも増えています。

「コロナのせいで、こういうものが淘汰されてしまうのはまずいっていう危機感も、いっそう強まっていますね」

「安心して入浴できる銭湯」を実現するために、注意喚起を徹底している

2021年1月の時点で、京都市内の銭湯の数は約110軒。三次郎さんが梅湯の経営を引き継いでからの5年間で、1年あたりに廃業する銭湯の数は平均で約7軒です。したがって、このままのペースでいくと、10年後には40軒を切ってしまう見通しです。

また、更地の状態から新たに銭湯を立ち上げる場合、梅湯ほどの比較的小さな規模であっても、2、3億円の費用が伴います。そのコストを回収するには、長い期間を要するだけに、およそ現実的な話ではありません。だからこそ「いまあるものを残していくこと」が、銭湯活動家としての三次郎さんの最大の使命でもあるのです。

「例えば、梅湯だったら明治時代からあるみたいなので。100年くらいなわけじゃないですか。100年間も、その場所に人の営みの積み重ねがあるって、けっこう重みがあると思うので。それが令和になったいまも、同じように人々が湯に入る営みが続いているって、すごく尊いことだと思うので」

この非常事態において、「銭湯を残す」という信念は、いっそう強固なものとなっているようです。

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