そして、最後に残った大きな蔵が、宿泊施設としてリニューアルされたのが2020年。

「酒蔵なのに酒造りの体験はできない。どうしよう?と考えたときに、そうだ、自分を醸したらエエんや!ということになったんです(笑)」

それが、冒頭の「新しい自分を醸そう」というコンセプトにつながり、酒造工程を擬似的に体験できるゲストハウスが誕生しました。

「三豊鶴TOJI」の外観。この建物は、杜氏(とうじ)と呼ばれる醸造職人が寝泊まりをしながら酒造りをしていた場所

入口を入るとすぐに、大きなタンクや酒造りの道具が並び、1887年創業の酒蔵が歩んできた歴史を目の当たりにすることができます。

日本酒の昔ながらの搾り方である「槽(ふね)搾り」の道具が残されているエントランス

宿のメインコンテンツである大浴場には、大釜風呂のほか、寝湯や露天樽風呂があります。お風呂の水は、三豊鶴で実際の酒造りに使われていた仕込み水。海の近くながら、紫雲出山系の地下水という清らかな水があったからこそ酒蔵の歴史が始まったのだと思うと、感慨もひとしおです。

「ぜひ大釜に浸かって醪になった気分を味わってください」と喜田さん。ちなみに、麹に見立てる入浴剤は、大吟醸の酒粕が使われたオリジナル品

畳敷きの居間は、かつて杜氏たちが酒造りの合間に休憩していた場所。

「きっと、休みの合間にもいいお酒造りを目指してあれこれ話していたんじゃないかな。ゲストの方々にも、ここでくつろぎつつ色々な話をしてほしい。そこから新たな気づきが生まれたらいいなと思います」

4名までが寝室としても使える居間。右の絵は、イベントでもコラボレーションした小川貴一郎によるもの(写真提供:喜田建材)

3名までが寝室として使える升部屋。天井には、酒造りに使われていた麹布があしらわれています(写真提供:喜田建材)

ここを拠点に、地域の価値を“醸造”する様々な活動をしていきたいと熱く語る喜田さん。

「空き家の多さも地域の課題ですが、前向きに取り組みたい。宿だけじゃなく、地域に必要なコンテンツはたくさんあるので、活用して息を吹き返すお手伝いをしていきたいです。外からの方も大歓迎。意欲ある人にどんどん活躍してほしいですね」

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