「日本のウユニ湖」として、すっかり全国区の人気スポットとなった父母ヶ浜(ちちぶがはま)のある香川県三豊市。活気づく街では、次々と魅力的なゲストハウスが誕生しています。オーナーたちは皆、地元愛にあふれた人ばかり。彼らが語る宿への思いやこだわりを、数回にわたってお届けします。第2回は、建築会社の視点から街並み再生に取り組む菅(すが)徹夫さんです。

本葺瓦になまこ壁。歴史を感じる宿を、街並み散策の拠点に

「三方を山に、一方を海に囲まれた仁尾(にお)は、戦国時代に発展した城下町。江戸時代には、物資が行き交う港町として賑わい、塩田業でも繁栄しました。今もなお、昔の面影を残す街並みがあちこちに残っているんです」

こう語るのは、三豊市の仁尾町で明治の頃から建築業を営む「菅組」の現代表・菅徹夫さん。かつて荒物屋だった江戸末期の建物を、一棟貸しの宿にリノベーションしたのは、長年の思いがあってのことでした。

宿が面するのは、昔ながらの面影が特に残る通り。左手の建物は、江戸時代から続く薬屋さん「永徳屋」

「街に点在する古い建物は、歴史的にも文化的にも価値が高いものですが、現在はその多くが住む人もおらず放置されています。地元の建築関係者としては、なんとか再生して後世に残したい。それが街の個性にもつながるはずだという思いがありました」

20年以上前からこう考えていたという菅さん。縁あってこの建物を借り受けることとなり、活用方法として浮かび上がったのが、宿泊施設にすることでした。

1年以上かけて改築を終え、もともとの屋号である「多喜屋(たきや)」という名でオープンしたのは2020年11月。堂々たる本瓦葺の屋根となまこ壁が、何とも風情ある外観です。

1階は居間と食堂と台所がひと続きになった空間。古い柱や建具を活かしつつ、モダンで落ち着いた内装に仕上げられています。壁にかかったアートを始め、器や照明など、随所に香川の作家ものや工芸品があしらわれているのも魅力です。

「できるだけ地域の品々を取り入れて、お客様に体感していただけたらと思っています」と菅さん。

食堂の外はウッドデッキと庭。壁にかかるアートは、菅さんと旧知の香川在住の造形作家・森田真由美作。和紙に土を漉き込んだもので、開業祝いの贈り物だそう

香川の伝統工芸品である保多織(ぼたおり)の部屋着。ワッフル状の凹凸があり、さらりとした肌触りが心地いい(写真提供:菅組)

上階の小屋裏は、かつては物置になっていたところ。剥き出しの丸太梁や垂木を活かし、ベッドルームと和室に改装されています。にじり口のような低い入口をくぐると、がっしりと立派な梁の迫力がすごい! 伝統構法を間近に体感できるのは、古民家ステイの醍醐味です。

手を伸ばせば梁に触れる高さ。照明は香川にアトリエを構えて活動していたイサム・ノグチの「Akari」シリーズ。

埃だらけでボロボロだったというのが想像できないくらい、美しく蘇った和室。多人数で滞在する際は、ふとんを敷いてここも寝室にできます(写真提供:菅組)

勾配天井が雰囲気たっぷり。ぐっすり眠れそうなベッドルーム。マットレスはイタリアのマニフレックス社製

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