オーストラリアで自分の源流を辿る

甲田:
そして3年間の協力隊任期を満了。卒業後に、オーストラリアへ。

岩本:
はい。

甲田:
(一見すれば、脈絡がないように思えるオーストラリア。でも、岩本さんの中で言語化の難しい「勘」みたいなものが働いたのかもしれない。それは誰にも真似できない岩本さん特有の「フットワークの軽さ」の一因にもつながっているんじゃないか)

岩本:
本当に、ポンッとオーストラリアのゴールドコーストに来てしまったので。住むところも決まっていない、仕事も決まっていない。語学もそんなにできるわけじゃない。単身でエージェントを入れているわけでもない。手もとのお金だけがどんどん減っていく(笑)。

甲田:
いや、ほんとにとんでもないフットワーク!

岩本:
でも、なんとかなるんですよね(笑)。真庭に通じているところでもあるんですけど、だれかに相談すれば、なんとかなるんです。真庭のコミュニティ感に似ている、と何度も思いました。まもなく家も、仕事も、無事に見つかって。

甲田:
ほんとになんとかなるもんですね(笑)。ちなみに、オーストラリアではなにを?

岩本:
やろうと思っていたことはあったんですけど、結果的にオーストラリアでは自分の源流を辿ったのかなと思います。自分の源流を辿るなかで、はっきりと「スポーツジムで起業しよう」と思いました。

甲田:
岩本さんの源流というのは?

岩本:
長距離の陸上選手だった、ということです。でも高校大学と怪我が多かったんです。だからメニューも、いつも自分で組んだ別メニューを行なっていました。素晴らしい陸上選手はたくさんいるんですけど、この「自分でメニューをつくる」ことができるのは、なかなかいないみたいで。また、大学でも体育学部体育学科、陸上を専攻して、いろんな角度からの「スポーツバイオメカニクス」を学ばせてもらったのも大きかったです。

パーソナルトレーナーとして、器具の使い方・メニューの組み方も指導している。
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誰かに話せばだいたい解決策が見つかる

甲田:
「スポーツジムで起業しよう」と決めて、真庭市へ戻ってきたわけですね。

岩本:
それもあるんですけど、日本での貯金が……。保険とかいろいろ目減りする一方で、調べてみたら、残り5万円ぐらいしかなくて。慌てて、日本に帰ってきた感じです(笑)。先立つものがないので、とにかく「仕事を」と思って、知り合いに連絡したら、真庭の人たちが「仕事あるよ」と反応してくれたんです。11月にオーストラリアから戻ってきて、真庭でお手伝いのような仕事をしながら、1月にパーソナルトレーナーとして開業届を出しました。その後も、地域の人たちから声をかけてもらって草刈りとか宿泊業務のお手伝いをして。8月から、ジムに専念しました。

甲田:
ジムの物件はどういう風に?

岩本:
物件についても、真庭の知り合いに連絡していたら、「物件あるよ」と紹介してもらって。改修は必要だったんですけど、その時点ですでにマーケティングというか、需要の調査もできていたので、お願いしました。需要の調査は、トレーニングジムの入っている「白梅総合体育館」と「真庭市健康増進施設 水夢」の年間利用者数を尋ねたんです。企業だったら数字って絶対に出ないんですけど、行政の関わっている施設なので知ることができて。その利用者数からニーズが見えてきました。

甲田:
資金は、銀行からの借入と聞いたんですけど、借入に対するハードルみたいなものは感じませんでしたか?

岩本:
なかったですね。もうやると決めていたので。むしろ、しっかりと借りることができれば、と思っていました。もちろん負担のない範囲で(笑)。経費計算とか、経営のこととか、そういうのは、沼本吉生さんに相談しました。

ほんと、真庭って身近に経営者とか起業家がいて、すぐに相談できるんですよね。協力隊のときの繋がりが生きています。真庭の良さだと思うんですけど、サイズ感がちょうど良くて、誰かに話せばだいたい解決策が見つかるんです。

ジム正面のカウンター。ブルーの壁面がとても美しい。

甲田:
実際に起業して、生活は変わりましたか?

岩本:
変わりましたね。楽しいです。性に合ってるというか。自分のペース、裁量でものごとを決めたり、進めたりすることができるので。

無心になれるサードプレイス

体幹をはじめ、身体を鍛えるトレーニング機器がズラリ。

甲田:
このスポーツジムの特長を教えてください。

岩本:
いろいろあるのですが、ひとつは体幹を使う器具が揃っていることです。外側の筋肉だけではなく、ふだんの生活の中で使える筋肉、体幹に重きを置いています。あとは、この空間も特長だと思っています。ここって肩書きが必要ないんです。仕事のこととか家のこととか、そういう枠になくて。自分の時間を保てる、無心になれるサードプレイスなんですよね。

甲田:
自分と向き合う時間が、ここにはあると思います。ここから望む山なみ、旭川の美しさもひと役買っていますよね。今日はありがとうございました。

岩本:
こちらこそ、ありがとうございました。

岩本さんにのせられて、なまった身体をいじめる筆者。

岩本さんはスポーツジム運営の他にも、パーソナルトレーナーとしても活動しています。スポーツジムはいつでも見学を受け付けているらしく、事前連絡さえすれば、トレーニング空間、機器などを見ることができます。取材後、トレーニング機器のいくつかを試させてもらいました。地方ならではのクルマ社会に慣れたこうだの身体は悲鳴をあげ、身体を使う必要性を一瞬のうちに感じました。

聞き手:甲田智之 写真:石原佑美

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