人間社会の外側に意識を向けてみる

子供から大人まで幅広い世代が影絵に参加した。(写真:牧浦知子)

今年は昨年惜しくもできなかった影絵のライブ上演を一般公開するべく、福武ハウスが現在クラウドファンディング「今は会えない人に島のものがたりを伝えたい!『福田うみやまこばなし』上演プロジェクト」を行なっている。締め切りは1月18日までといよいよ近づいてきた。

最後に川村さんが今アーティストとして伝えたいことはなにか聞いてみた。

「今、多くの人が人間社会の常識の中でしか、想像力を働かせられなくなっているように感じます。自然に触れ合う機会が圧倒的に少なくなっていることによって、思考の幅がどんどん狭くなっているんじゃないでしょうか」

現状の問題点に気づいたり、未来を想像したりするには、感性に意識を向ける必要がある。

「過去に林業に携わる人にインタビューしたのですが、林業の方たちは親から孫の世代で継承されていることから、150年くらいのスパンで事業を考えています。曽祖父が植えた木を自分が切って、自分が植えた木をひ孫が切るんだよって」

人間同士のコミュニティだけしか考えなければ、せいぜい70〜80年のスパンぐらいでしか将来のことを考えられないだろう。人間の生存スパンだけで損得や良し悪しの判断をしてしまうことに疑問を持っている、と川村さんは言う。

「戦前は人間と植物や動物、人間社会の外側にあるものとも、もっと交流していたんじゃないかと思うんです。それは交流しなきゃ生きられなかったから。今は交流しなくても生きられると思ってしまっているけれど、はたしてそうでしょうか。外側とも交流すると、もうちょっとみんな楽に生きられるような気がする。今回みたいなパンデミックが起こっても、対処法や心の構え方がもう少し安定するんじゃないかと思うんです」

単なるパフォーマンスでは収まりきらない川村さんの影絵。光が当たるものの先にある影はなにか。

川村亘平斎(かわむらこうへいさい)
1980年、東京生まれ。インドネシア共和国・バリ島に2年間滞在し、影絵人形芝居【ワヤン・クリット】と伝統打楽器【ガムラン】を学ぶ。世界各国で影絵と音楽のパフォーマンスを発表。日本各地でフィールドワークやワークショップを行い、土地に残る物語を影絵作品として再生させる活動が高く評価されている。絵本【おそなえきのみ】(`18)、シネマ歌舞伎「The DOGGY’s LOOK」影絵演出(`19) NHK Eテレ「こころの時代」影絵演出(’20)写真集【東京影絵】(川村亘平斎・宮本武典共著)ほか、切り絵、イラストや映画、CMへの楽曲提供など幅広く活動している。ガムランを使った音楽ユニット【滞空時間】主宰。平成28年度第27回五島記念文化賞美術新人賞受賞。

この記事の写真一覧はこちら