変わらないお店に訪れた、コロナ禍という転機

もうひとつ、七番館で驚かされるのはルウの量。グレイビーポットからあふれんばかりに注がれたルウは、近隣で働くサラリーマンから支持される大きな要因といえるでしょう。もちろん、ライスが余ってしまうといった心配とは無縁です。

取材当日はちょうど美容院に行った直後だった。カメラを向けられたときのシャイな笑顔が愛らしい

「わざと入れてあんのよ。少ないのいやでしょ。私が食べてもいやと思うから」

さらにはライスの量も事前に確認。きめ細やかな気配りで、大食漢にも少食の人にも柔軟に対応してくれます。ライスにルウをかけた状態での写真撮影の禁止など、お店独自の制約が多い一方では徹底的なお客さん視点が貫かれているのです。

使い込まれた南部鉄器の茶釜

食後には年代物の茶釜を使った緑茶のサービスも。「口の中がさっぱりするでしょ」とは、ママのいつもの決まり文句です。実際、濃厚なカレーを楽しんだ後にいただく1杯のお茶は、口の中を清涼感で満たしてくれる存在。最後の工程を終えて初めて、七番館におけるカレー体験は完結します。

ママご自慢のカップ・アンド・ソーサーのコレクション

さて、そんなこんなで半世紀。長く愛されるお店を築けた秘訣を問うと「私は半世紀やってへんで」とおどけながらも、父とともにつくり上げたレシピ、そして七番館流の「作法」を守り抜いてきたことに理由があると答えてくれました。

「カレーのメニューはな、少しだけ変えて。あとは先代のを継ぎ足して残していった」
「ミックスジュースとかロイヤルティーは先代のまま。コーヒーもそう」

ドリンクメニューも豊富に揃う。なかでもロイヤルティーはその作り方に一見の価値あり

そんな語りにも表れているように、変わらずにいることが信条のお店に変化の必要性を突きつけたのが、新型コロナウイルスでした。店内の換気扇は常にフル稼働。入店してきたお客さんには必ず手指の消毒をするよう声をかけるなど、大阪府の感染症防止ガイドラインを励行しています。

スプレーに代えて、自動のアルコール噴霧器を導入するなど、コロナ対策は徹底したもの

「コロナはたいへんだよ。店に対して多少は影響ありますよ」

実際、常連の多くを占めるサラリーマンの客足は遠のいたといいますが、それでもママは気丈です。

コーヒーを頼むと、必ずおかきがついてくる

「(売上は)30から40(パーセント)減っただけ。半分は減ってません」
「別にそこまで稼がんでいいし」

あっけらかんとした口ぶりのわけは、やはりお客さんからの「おいしかったよ」「また来ます」といった声にあるそう。あるいは提供しているものへの自信が、その源泉になっているのかもしれません。

どこか懐かしい風情の残る九条の街で、今日もお客さんを待っている

「攻略」の楽しみがあるお店、七番館。そんな喜びを感じられることも手伝ってか、新型コロナウイルスにも揺らがない名店では、今日もママの元気な声が響きます。

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