「昭和レトロ」との出会いが、塚本さんを店の外へと連れ出した

5年ほど前から、北欧雑貨に加えて「昭和レトロ」と呼ばれるジャンルにも手を伸ばすようになったPiNS!。東京の親戚を訪ねた際、玩具問屋で見かけたおもちゃの箱絵に、北欧雑貨に通ずるデザイン性や色づかいを感じたことが、きっかけになったそうです。

「たとえるなら、音楽のシャッフル再生。ジャンルや歌詞が違えど、ごくまれにある曲が終わって、テンポ同じまま別の曲、好きな曲につながることがあると思うんですよ」

両者に共通する特徴は「パキッとした」配色。自身の好みをそのまま店に表現した結果、北欧モノを目当に来店したお客さんが、昭和レトロやファンシー雑貨にも目を向けるようになったこともあるといいます。

昭和レトロを取り入れ、北海道や四国まで仕入れに足を伸ばすようになった新生・PiNS!は、少しずつ認知度が向上。2019年には副業の会社勤めを辞め、雑貨屋一本で生計を立てられるまでになりました。

大盛況の大阪レトロマーケット(2019)

そして、同時期に始めたのがイベントの主催です。もともと古本市が好きだった塚本さん。「(同じことを)レトロ雑貨でやってみてもおもしろいんちゃうかな」という素朴な発想から、同じく大阪の雑貨屋・エフロノットと共同で第一弾イベント「大阪レトロマーケット」の開催にこぎ着けたのです。

地元・関西にとどまらず、関東の雑貨屋も出店したイベントは、2日間でのべ1000人以上を集める大盛況。

自らイラストを描けないぶん、「餅は餅屋」とフライヤーはイラストレーターに依頼。可能な限りイメージは伝えるようにしている

その後に始めた「中之島うたかたレトロ市」は、初回こそ数十人程度の集客でしたが、イベントのコンセプトに沿ったフライヤーの制作を依頼したり、多くの雑貨屋に頭を下げてまわったりしたりと、地道に営業活動を続け毎回数百人規模の集客を見込めるまでに成長しました。

「レトロ雑貨探してる人、多いんだって。子育てがひと段落した主婦さんも多いし、お客さんに人気のあるものに合わせて、僕の嗜好も変わってきて。70年代の少女マンガの付録とか」

店の外に出て、より多くのお客さんとふれあうなかで、徐々に店のあり方を変えてきたPiNS!。次に対応を迫られたのが、新型コロナウイルスでした。いまは検温やマスクの着用など感染症対策を徹底して開催を継続中。

ウィズコロナで感染症対策が取られた「中之島うたかたレトロ市」

骨董市や蚤の市が軒並み中止になるなか、お客さんからは「こういう状況でもイベントがあって気持ちが上がる」といった声が聞かれるほか、コロナ禍にあえぐ古物業界の灯を消さないという、重要な役割を担うまでになりました。塚本さんのセレクトによるファンシーな品々は、殺伐とした時代に一抹の清涼感を与えてくれるかのようです。

雑貨を通して誰かと誰かをつなぐ、そんな将来像を

彩度の高さが北欧雑貨に似ているそう

母との別れから10年以上、塚本さんは認知症にかかった伯母の介護に努めるようになりました。買い物に出かけたことを忘れて、何度も買い物に出てしまう伯母の姿を見て「普通やったらノイローゼみたいになると思うんですけど」と語る毎日ですが、まったく意に介しません。

「そういうのは笑い飛ばすように。全然、雑貨に関係ない」

母の死が雑貨屋を続ける原動力になったのと同様、伯母の存在も自らにとっての鏡となり、イベントをはじめとした新たな展開に向けてのエネルギーをもたらしてくれているようです。塚本さんがここまでポジティブになれる背景には、仕入れに訪れた台湾の雑貨屋店主からかけられた、こんな言葉もありました。

「何もない状態で生まれてきて、何も持たずに死んでいく。君はこの人生で何を犠牲にして、何に身を捧げ、何を残すのか」

つまりは塚本さんが身を捧げるべきは、雑貨屋という職業だったというわけ。今後はレトロ雑貨という文化を固定化させず、その裾野をより広げようと、実店舗の充実やZINEの発行などにも取り組もうと考えているとのことです。

ひたすらに積み上がっていく商品群

最後に、塚本さんにとっての雑貨屋という仕事の本質を問うてみました。すると、こんな答えが。

「最近の中之島うたかたレトロ市も、モノを売るイベントというより、お客さん同士がシンパシーを感じて、共感し合う場になったことは、すごいうれしいですね」

実際、お客さんのなかには70年代風の服装を楽しむ人や、ファッションや雑貨を媒介にその場で仲よくなる人も。50年以上前に姉とけんかし、そのおもちゃを壊してしまった女性が同じ少女玩具を見つけ、「今度のクリスマスプレゼントに」と、うれしそうに話してくれたこともあるそうです。

大川沿いの遊歩道を歩けば、塚本さんに会えるかも

単にモノのやりとりをするのではなく、そこに込められた思いや記憶をつないでいく。雑貨には、そんな「メディア」としての役割がある。「やりたいことはやれるうちに」を地で行く塚本さんのことですから、きっとこれからもおもしろい展開が待っているはずです。

この記事の写真一覧はこちら