「今、本当に充実しています」被災後、再スタートを切った真備のうどん店

岡山県倉敷市真備町の中心部である吉備真備駅近くに、幅広い年齢層のかたに愛されるうどん店「手打ちうどんさるや」があります。
平成30年7月豪雨で店舗は被災しましたが、お店の場所を変え、新店舗として2020年4月1日にオープンしました。
思わず通いたくなる魅力と、店主・柴田勇樹(しばた ゆうき)さんに再スタートを切った、今の思いについてお聞きしたので紹介します。
「手打ちうどんさるや」は、真備町出身の店主が2011年にオープンしたうどん店です。
平成30年7月豪雨で店舗は全壊しましたが、同年9月に自宅のカレージを使って仮設テントで営業を再開。その後は、コンテナハウスで2019年5月から9月まで営業していました。
そして約半年の休業を経て、2020年4月1日に吉備真備駅の北口から徒歩約2分の場所にオープンしました。
出汁のうまみを味わる「かけうどん」をメインとしたメニューがたくさんあります。
お店を始めて約9年になる、今の気持ちを店主の柴田勇樹さんにお聞きしました。
──うどん店を始めたきっかけを教えてください。
柴田──
僕が20歳(2001年)のころは、うどんブームだったんです。もともとうどんを食べるのが好きだったので、香川へ讃岐うどんを食べに行きました。
たまたま入った製麺所のお店のかたに、「うどんを踏んでみないか?」と声をかけていただいたんです。
うどんを初めて踏んでみて、衝撃でしたね。
香川のうどんってこんな感じなんだ、うどんっていいな、自分の性(しょう)に合っているなと、その時思いました。
──自分のお店をもったのはいつごろですか?
柴田──
それからちょうど10年後、僕が30歳(2011年)のときです。
実は、真備町で営業することにこだわりはなかったんです。3~4年かけて倉敷や総社などの物件を探して、真備町箭田の貸店舗があったので、そこでオープンすることになりました。
──そして、平成30年7月豪雨で店舗も自宅も被災されて…。営業を再開しようと思ったいきさつをお話していただけますか?
柴田──
被災後、グループ補助金の説明会で集まって、他の飲食店経営のかたと話す機会があって。そこでいろいろな話をしました。
もちろん、うどん店を辞めて、まったく違う仕事をするという選択肢もあった。けれど、いろいろなお店のかたから、営業を再開されると聞いて。
「このまま辞めてしまうのは…」と、思いました。
「焼肉天隆」さんは、被災した店舗の敷地内にあるガレージで焼肉弁当を始めたりして。
できるところで、それぞれができることを始めていることを知って、僕も前向きにならんといけんなぁと思いました。
まずは、できる範囲から始めよう、と。
──仮店舗での営業を通して、大変だったことやよかったことなど、お話してもらえますか。
柴田──
仮店舗のときは、麺の仕入れやコンテナハウスの家賃などで、ほとんど儲けはありませんでした。
手打ちうどんではなかったので申し訳なかったけれど、やってよかったと思うんですよね。
お客さん、みなさんすごく喜んでくれました。
そして、仮店舗での営業でお店のことを知ってくれた方も増えたのもよかったですね。
──吉備真備駅すぐ近くで、立地のいい場所ですね。
柴田──
すごくいい方に土地を貸してもらうことができて、ここで営業を再開することができました。
余談ですが、ライフタウンまび1階に「ここまーる」さんというスコーン屋さんが2020年8月にオープンして、相乗効果でお客さんも増えたんです。
近くには「パンポルト」さんもあるし、吉備真備駅周辺を盛り上げて、一緒にがんばっていけたらと思います。
──うどんを作るにあたって、心がけていることなどを教えてください。
柴田──
かけうどんのスープは特に気を使っています。出汁(だし)の塩づかいって難しいんですよ。塩の使い方に注意して作っています。
からいとは思われたくないので、いい塩梅(あんばい)を心がけています。
来られるお客さんの好みの中間になるよう、スッキリとした仕上がりにしています。
──あと、さるやさんといえば丼いっぱいの大きな海老天もはずせないですよね。
柴田──
味も大事ですが見た目も大事なので、インパクトのある衣(ころも)の海老天にしています。
おいしい衣にするよう、衣にも塩を入れています。衣までおいしく食べてほしいので。
夏はぶっかけ、冬はきつねうどんがよく出ますね。
新型コロナウイルス感染症で自粛期間中の2020年は、うどんの持ち帰りもよく出ました。
──麺は、以前と太さなどが違いますが、製法を変えられていますか?
柴田──
麺を作る機械はすべて被災して使えなくなったので、新しい機械で作っているので作り方は変わっています。
スープの味はほぼ変わっていないのですが、麺はいまだに試行錯誤しています。
実は、僕自身は固めの麺が好きなんですよ。けど、この真備では年配のかたも多く来られるので違うかなと思って、食べやすい太さや固さの麺にしています。
それぞれ好みもあると思うので、みんなにおいしいと言われるのは難しいのですが、7割のかたに「おいしい」と好まれる味を目指しています。
──新しい店舗で2020年4月に営業再開されて、2020年10月時点で約半年経ちました。今、振り返ってみてどう感じますか?
柴田──
信じられないですよね、あそこからここまで戻ってこれたことが…。いろいろな選択肢があったけど、間違いでなかったと思います。
平成30年7月豪雨で被災してから、気持ち的にもたれかかれるところがなかったんです。
けど、2020年4月から、ようやく自分のお店で麺も自分で打って、提供できるようになって。
ひたすらうどんを作って、お客さんに喜んでもらうというひとつの一本の芯(しん)ができました。生活スタイルがやっと戻って、ちゃんと生活しているな、と感じています。
今、本当に充実しています。
──今後、どんなふうにお店を続けていきたいかなど、お聞かせください。
柴田──
夜の営業もしていればお客さんは来てくれると思うのですが、無理をして体を壊してはいけないので、今できる範囲で営業を続けていこうと考えています。食べていければそれでいいので。
もしかしたら、将来的には営業スタイルは変わるかもしれません。
いろいろなメニューを増やしていくのは自分の性に合わないので、もちろん改善点はあるので改善をしていきながら、今の味を守っていきたいと思っています。
うどんを通じて、真備に貢献できることがあれば積極的に参加したいですね。
真備町在住の筆者が日常的に食べていた、「さるやのうどん」が帰ってきた。
何気ない日常のなか、いつも行っていたお店の復活は本当にうれしいものです。
「自分が作ったものを食べてもらって、お客さんにおいしいと言ってもらい、それが生活になる。お店をやっていて本当によかったなと思います」
と取材時にお話された柴田さん。その言葉がとても印象的でした。
一生懸命な店主が提供するうどんの出汁は、胃袋にも心にも優しく沁(し)みわたります。
復興進む真備町で、おいしいうどんを味わってみてはいかがでしょうか。